「いつになったらなくなるんだ、この紙の山」
放課後の図書室の一角、読書用の大きな机。
そこに積まれた大量の書類に、顔をうずめて突っ伏すリンク。
「もうすぐだよ、君があとちょっとだけ手を動かしてくれれば」
涼しい顔でそれを咎めるマルス。
「なんで俺なの?」
「今日はロイ、部活があるからね」
「・・・可哀相なロイ」
「ロイはね、お礼にアイスをおごるとすごく喜んでくれるんだ」
「俺にもちょーだい、お礼」
「君にはおごりたくない」
「なに、その違い」
「さぁなんだろうね」
マルスは軽くかわし、
自分の目の前の書類を手際よく積み直していく。
「どこで拾ってきたんだよ、こんな仕事」
「ピーチから」
「ピーチ?ってことは」
「ゼルダの仕事なんだろうね」
「じゃあこれ、生徒会の仕事なのか?」
「そういうこと」
「他にやるヤツいるだろ?」
「ゼルダは会長様の片腕。それもとびきりに優秀なね。
任される事も多いに違いないよ」
「大変なんだな、ゼルダも」
「やる気、出たかい?」
「なんでピーチが拾って、俺達に回ってくるんだ」
「彼女が言うには、
『私が無理矢理にでも貰わないと、あの子が遊びにいけないでしょ?
で、私が誰かに渡さないと、私がゼルダと遊べないじゃない!』
・・・だって」
「すごい理屈だな」
「そんなものだよ、理屈っていうのは」
「道理に適わない理由が理屈になるってのか?」
「世の道理なんて、結局は人それぞれ」
「その個人の勝手をまとめるための道理だろ」
「価値観の違いはどうあってもまとまらない。
だから世界には争いというものがある」
「でも争いはよくないっていうのが世の道理」
「争いを通して得るものもある」
「ない。あったとしても、それはもっと別のやり方で手に入る」
図書室に、しばしの沈黙が流れる。
いつのまにかマルスの手も止まっていた。
校庭から響いてくる生徒達の声、本棚の上で風に揺れるカーテン。
2人は顔を合わせ、互いの目を見合った。
そして、
「あははははは!」
「あはははははッ!」
唐突に笑い出す。
「うるさいよ」
「まったくだ」
ひとしきり笑って、一息ついた後、
マルスは再び作業を始め、
リンクも、嫌々ながら手近な紙を1枚手に取って眺めだした。
「・・・ところでさ」
「ん?」
「・・・・・・生徒会長って、誰だっけ?」
「・・・」
「・・・」
「そういえば、僕も知らないな。体育委員会で会わない?」
「生徒会長は一回も来たことない。朝礼とかで・・・」
「・・・」
「・・・見たことないな」
「ないね」
「・・・」
「・・・ま、いっか。今度ゼルダに聞いてみよう」
「そうだね」

next
Back