四限目・・・
いつものように、テストから始まるこの時間。
(さすが・・・としかいえない)
マルスは、ちらっと横を見る。
カンニングだなんて思われないように、こっそりと。
気になる。
いや、毎度のことなのだが・・・
でも気になる。
皆が筆を進める中、一人、箸を進める者がいる。
しかも一番前の席で。
続いて前にも目をやる。
・・・この時間の先生であるガノンドロフは、
教卓の横の椅子に座り、静かに目を伏せている。
この先生は
授業が面倒だからテストばかりやっているのかもしれない。
そんな風に思ってしまう。
目の前で弁当を食べるその生徒に、見向きもしない。
(テストの時間・・・
ある意味、生徒が自由に使えるとも言える・・・けど)
再び、そいつを見る。
その生徒・・・
カービィは静かに、あくまで静かに、弁当を食べ進めていた。
その様子がとっても幸せそうに見える。
この曜日のこの時間は、
いつもこうだ。
いつもテストで、いつもカービィは弁当を食べている。
それだけではない。
カービィは
いつもはない、謎の帽子を頭に乗っけている。
いわゆる角帽という物か。
海外の大学の卒業式などで見かける、
なんだか頭がよく見える気がする帽子だ。
毎週、この時間になると、その帽子は出現する。
「・・・時間だ。出せ」
端的な先生の言葉。
それを聞き、少しのざわめきと共に皆が動き出した。
マルスも思考は中断し、
後ろから回って来た解答用紙を受け取って自分のを重ねる。
生徒たちが用紙を集めている間に
「問2、ファルコ。問5、マルス。問6、カービィ」
先生が指名していく。
今のテストの解答を板書しろということだ。
他の問題は、勝手に復習しろ、と。
もはやこの授業での、暗黙の了解であった。
「・・・」
この先生は、余計な物を嫌う。
マルスは返事をせずに、黒板の前へと出た。
ファルコも黙って進み出る。
「は〜い」
一人だけ、のうてんきな声で返事をする。
そして
まだ残っていた弁当を、一口でたいらげ
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、
弁当箱を片し、
「ヨシ」
やっと、黒板の前へとやってきた。
すでにファルコは半分近くを書き終えている。
「マルス〜」
「はいはい」
カービィの呼び掛けに応えて、
マルスはカービィを肩に乗せてやった。
こうしてやらないと、背が届かないのだ。
「まいどありがと☆」
言って、ようやくチョークを握る。
マルスの肩の上から、
器用に、しかもスラスラと解答をつづっていく。
(・・・)
気にしている場合ではない。
マルスも再び黒板に手を戻す。
彼等がそうしている間に、ガノンドロフはテストの採点をしてゆく。
間もなくファルコが書き終わり
教壇から降りた。
自分の席へと戻りかけるも
「間違っているぞ」
「・・・」
先生に、即座に指摘されてしまう。
「どこが?」
「知るか。自分で考えろ」
こっそり舌打ちをしつつ、教壇上へと戻る。
「マルス、終わったよ」
「早いね」
「えらいでしょ?」
「えらいえらい。だからもうちょっと待ってて」
「はーい」
マルスは肩にカービィを乗せたまま、自分の解答を書き進める。
「・・・お腹へったよ」
カービィがつぶやく。
「もうちょっとだから」
とりあえず答えたものの、
まだ食べ物を持っているのだろうかと疑問に思ってしまう。
横ではファルコが、
チョークも持たずに黒板とにらめっこを続けている。
「先生、終わりました」
「席に戻れ。そっちは?」
「わかんねぇ」
「ならいい。戻れ」
教壇から、ファルコが下り、マルスが下りる。
マルスが席へ戻る途中、
カービィは自分の席の横で、マルスの肩から飛び降りる。
「問1、」
3人が席に着くかつかぬかのうちに、解説を始める先生。
マルスは椅子をひきながらそれに耳を傾け、
そして、ちらとカービィの方を伺った。
・・・また、弁当を広げている。
気になる。
気になる。
気になる。
いったい、いくつ弁当箱を持っているのか。
普段の成績がいいわけでもないのに、
なぜこの授業だけすらすらと解答できるのか。
この授業でだけかぶっている帽子はなんなのか。
こんなに堂々と早弁をして、この先生はなんとも思わないのか。
・・・・・・
・・・
「マルス」
唐突に、先生の声がかかる。
驚いて見上げれば
先生が教壇からチョークを持ったままマルスを睨んでいる。
「何故、紙に書かれた答えと違う?」
「え?」
言われて、よく見れば・・・
自分で書いた黒板の解答が、
些細な所ではあるが確かに間違っているとわかる。
・・・先生の言うように、
テスト用紙には正しく書いたはずだった。
「すいません、書き直します」
「いい。座ってろ」
とっさに腰を浮かしたマルスを制し、
先生は授業を続ける。
「・・・」
仕方なく、マルスも立つのを諦め
手元の問題用紙に目を滑らせた。
「せんせ〜!」
「・・・」
授業も終わり、教室を出たガノンドロフのもとへ
1人の生徒が走り寄って来る。
だが、ガノンドロフは足を止めたりはしない。
「ねぇ、おやつちょうだい!」
「・・・」
「せんせい〜」
「うるさいぞ」
「おなか減ったんだもん」
・・・授業の後にまで来るとは珍しい。
思いながらも、
なにをやる気も起きない。
「・・・職員室にでも行けばよかろう」
「おいしいものあるッ!?」
「・・・」
ガノンドロフは答えない。
「ありがとう、せんせっ!!」
よほど空腹なのだろう。
生徒・・・
カービィはあっという間に走り去ってしまった。
「・・・」
まぁ、
売店以外の場所なら問題はないだろう。
あとは自分が戻る前にいなくなっているように図るのみだ。
「・・・」
手元の物をみやる。
・・・テストの、用紙。
「これを『おやつ』と言えるとはな」
一枚やっておけば、授業中は静かにしていてくれる。
安いものだ。
「・・・なにがなにやら」
ここに来るまでは、
何事も物理で説明がつくと思っていた。
だが、あれを始めとして
この校内には奇妙で不可解なことが多すぎる。
「・・・」
鐘の音が響く。
午前最後の時限の始まりを知らせる鐘。
もうすぐ、昼休みだ。

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