校内の渡り廊下。
時限と時限の間のこの時間は、けっこうな人数が行き交う。
ロイもその一人だ。
次の時限は選択科目のため、一人で次の教室へと向かう。
「あ」
前からやってくる、一人の女生徒。
(ゼルダ・・・だったよな)
たしか、隣のクラスだったと思う。
女子が少ないこの学校だが、
そうでなくても、
彼女は『美人』に入るはずだ。
委員会にも所属しており、
その仕事ぶりや、見事のものであるともっぱらの噂で、
校内、特に男子生徒にとって、憧れの的となっている。
ロイも、もちろん例にもれない。
(ラッキーかも)
思いながらも、
それ以上のことも考えずに、
ただ、すれ違う。
もちろん向こうも、こちらなど見てはいないだろう。
その時
・・・微かに、聞こえた気がした。
「?」
見てみれば、
何かが廊下に落ちている。
「これは・・・」
拾い上げてみる。
「・・・しおり?」
金色のブックマーク。
正三角形の模様があしらわれた、清楚な物だ。
「あの!これ・・・」
とっさに声をあげる。
数人が振り向く。
が、ロイの手にしたものに気づくと
すぐに無関係と悟り、自分の歩みを進める。
(どうしようか・・・)
落し物箱って、どこにあったっけ?
そんなことを考えた矢先、
「すいません」
「え?」
目線をあげると、
ゼルダが、立っていた。
「それ・・・私のです」
「あ・・・」
彼女の落し物だったようだ。
・・・
初めて・・・・・・だと思う。
彼女と、こう、間近に立って、話をするのは。
「・・・」
本当に、綺麗な人だと思った。
遠目で見た時よりも、ずっと。
その彼女が、青い瞳で、こちらを見つめている。
「どうか、なさいました?」
不思議そうな顔で尋ねてくるゼルダ。
その声で、ふと我に返る。
「あ、すいません!これですよね」
拾い物をゼルダへと差し出す。
・・・顔が赤らんでいるのが、自分でもわかる。
「ありがとうございます」
ゼルダはそれを受け取り、
静かに微笑んだ。
そして
ロイへと軽く頭を下げ、
また彼に背を向け、歩き出す。
「あ・・・いえ、どういたしまして・・・」
その背中へ、言いそびれた言葉を小さく呟く。
しばしの間
ロイは、自分の手に持った教科書のことを忘れ、
渡り廊下に佇んでいた。

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