「やっぱり変よ、あんた」
チャットが言うも返事はせず、リンクはじっと神経を清ませて、ゾーラの身体に自分を馴染ませていった。
今は膝の上まで海水に浸かっているが、不快には感じない。少しでも水に触れている方が心地よく思えた。
しかし侵されたグレートベイの海は、淀んだ波が打ち寄せ、妙に生暖かい風が吹いている。
こんな海では、どの種族であっても馴染むことはできないだろうと思った。
「前にも言ったけど、慣れてるって感じするのよね」
慣れてなんかいない。咄嗟にそう思った。
チャットが言うとおり、俺は彼女が思っているよりずっといろいろな事を経験している。いろいろな事と出会って、そしていろいろな事と別れてきた。
だけど、墓を作ったのは初めてだった。
―――初めてだった。自らの手で人を弔うのは。
チャットが言っているのはそんなことじゃない。
たしかに慣れているのだろう。特にミカウの身体は、これまでの二人の身体よりずっと楽に感じた。
今までで一番、以前の旅に近い感覚で動けそうだ。
ゾーラの体温は低いから、もっと寒く感じるのではないかと思っていたけれど、全然そんなことはない。
自分の体温をよく感じることができて、暖かくすら思った。
ただ風が吹くと肌が乾き、共に熱を奪っていく。ミカウはゾーラの中でも屈強な人のようだけど、あまり無理はさせられないなと思った。
「ねえってば」
「ちゃんと聞こえてるよ」
まるで水の中で泡が弾けるように声が上がった。自分の声だと気付くのに時間がかかる。
そういえばこの人、歌ってたな。ギターも歌も下手だねーじゃすまされない。
どうにかできるように……は無理だろうから、誤魔化せるようにしておかなくては。
「もぅ……そろそろ教えてくれない?あんた、いったいドコでナニしてた奴なのよ」
「ん……大人になったことならあるよ?」
「はぁ?」
正直に言ってみたけど、やっぱり信じてないようだ。
「シャトーロマーニ飲んだからって調子乗るんじゃないわよ」
チャットに小突かれてしまう。
茶化したと思われたのだろう。実際、茶化したようなもんだ。
リンクはチャットに渇いた笑いを返した。
「チャット」
「なによ」
「俺、水の中苦手だからさ、なんかあったらよろしくね」
「何ふぬけたこと言ってるの」
今度こそ本気で言ったつもりだったのだが、一蹴されてしまう。
「そのゾーラのためにもガンバんなさいよ!」
「はーい」
今一度、自分の身体を確かめる。あとは動いてみないとわからないか。
リンクは軽く息を整えると、沖へと向かい、一歩を踏み出した。
「……ダル・ブルー、聞きたかったな」
ぽつんとチャットが呟く。返事をしようとしたのだが、言葉は身体と共に海に溶けて、消えてしまった。
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