
キッチンに甘い香りが漂う。
それに交じって姫のご機嫌な歌声も流れている。
「ねぇ・・・」
楽しそうに菓子を作っているピーチ、
彼女に、その横の卓上で肘をついて眺めているピットが話し掛ける。
「なぁに?」
姫は手を止めずに耳だけを貸す。
「いったい何人に声かけたのさ?」
「どうして?」
「だって・・・」
と、
ピットは姫の手元に目をやった。
大皿に盛られた、桜色の丸餅の山。
もうけっこうな高さに積まれている。
・・・ピットのいる卓上にも、既に山盛りの皿が4つもある。
「多過ぎじゃない?」
「誰かしら食べるわよ」
「誰かしらって・・・」
「カービィも呼んでるし」
「・・・なくなるね」
ピットがそろりと皿に手を伸ばすも、
ピーチに『ダメ』と素早く制され、しぶしぶそれを引っ込める。
「他には?」
「うーんと・・・誰に声かけたかしらねぇ。
メタナイトとデデデはカービィと一緒にいたから・・・」
「マリオとかは?」
「もちろん来るわよ。
マリオとヨッシーには他の食べ物揃えに行ってもらってるの。
クッパは場所の準備してるわ」
「・・・」
王国の勇者と大魔王までも使う姫、
彼女のあっさりした物言いには感服する。
ピットの表情も気にすることなく、ピーチは菓子を作り続ける。
「ドンキー達も誘ったわ。あとリュカもね。
フォックスにはみんな連れていらっしゃいって言ったし・・・」
『みんな』・・・って、いったいドコまでを指すんだろう?
考えながら再び皿の餅に手を出す。
・・・きっと、『みんな』は本当に『みんな』なのだろう。
「スネークも見つけたわね・・・ソニックも・・・
そうそう、あの子にも声かけたわ、ポケモントレーナーの。
ポケモンも大好きらしいわよ、サクラ餅。
・・・そうだ、ピクミンは何を食べるかしら?
オリマーも呼んだのよ」
「・・・なんか、
節操がないっていうか・・・手当たり次第?」
「あら、何か間違ってた?」
ピーチが手で餡を包んだ生地を丸めながら、
ピットへと顔を向けた。
「人が多い方が楽しいでしょ?」
彼女は言いながら、手元で餅を躍らせる。
「姫・・・いくつ?」
「なにが?」
「歳」
「ピット、レディーに歳を尋ねるのは失礼じゃなくて?」
「どう見てもボクより年上じゃない」
「それはそうね」
「なのに季節行事の準備に浮かれるなんてさ、子供っぽいよ」
「ふふ、もうピットは子供じゃないって?」
「当たり前だろ?いくつだと思ってるの」
「私より年下なんでしょ」
「む・・・」
言い返す言葉に詰まり、眉をしかめるピット。
ピーチは楽しそうな笑みを浮べる。
「そう照れずに、素直に楽しみなさいな」
餅を葉っぱでくるみながら、姫が言う。
「きっとそのうちわかるわ。
こういう時間が、いかに大切な物であったのか」
『あった』?
微かな疑問が浮ぶも、
ピットはただ首をすこし傾げるのみで、
何も聞きはしなかった。
「ピーチ〜」
声と共に2人のいる部屋へと入ってくるのは、
リンクとゼルダの二人連れ。
「姫、連れて来たよ」
「お邪魔します・・・」
「ありがとうリンク、ゼルダも。ちょうど準備できたところよ」
「アイクはちょっと遅くなるってさ」
「あらそうなの?
運ぶの手伝ってもらおうと思ったのに」
「私でよろしければ・・・」
「大丈夫よ、ゼルダ」
「そうですよ姫、俺がアイクの分までやりますから」
「おーリンク言うじゃん」
「!・・・ピットいたの?」
「いたよ」
「餅に埋もれてて気付かなかった」
「埋もれてなんかない」
「はいはい、リンク、そのお皿持って」
「りょーかい。ピットも手伝えよ」
「え?全部やるんじゃないの?」
「『アイクの分』だけな」
「屁理屈だ」
「いいからピットも手伝って」
「え〜」
「つまみ食いしたわよね?」
「う・・・」
「あの、本当に私も・・・」
『いいって!』
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