もふもふ もふもふ
「見かけない人、増えたわよね?」
ピーチ姫がわたしの右後頭部をもふもふしていらっしゃる。
もふもふ もふもふ
「新しい人たちが沢山お見えのようですね」
ゼルダ姫はわたしの右手のひらをもふもふしていらっしゃる。
「女の子も増えたみたい」
気にはなる。何がそんなに楽しいのか。
とても不思議だ。
だが、断る理由もない。嫌いでもない。
「どなたかお会いした?」
「フィットネスの先生にはご挨拶したわ」
「ふぃっとねす…」
「体操を教えてくれるんですって」
「体操…ですか?」
「今度一緒に会いにいってみましょうよ」
朗らかな会話がルカリオを囲む。
いつものことだが、彼女たちの波動に包まれると、とても安らかな気持ちになれる。
心地よくて眠ってしまいたいくらいだ。
「私も、ルキナとは少しだけお話しました」
「ルキナって、マルスに似た?」
「ええ、とてもよく似た」
ルキナ…その名前に少しは心当たりがあった。
マルスとよく似た波動の女性を見かけたことがある。
たしか、青い長髪の剣士だったような。
「あの子、美人よね」
「羨ましいくらいに」
そうだったか…?
ぼんやりと思い浮かべるが、どうやら頭も眠気で上手く働かなくなってきたようだ。
このまま夢に身を任せてしまおうか。
だが姫君たちの手前、そういうわけにも…
「ねぇ?ルカリオ」
「!」
姫の唐突な、少なくとも自分は予想もしていなかった呼びかけに、
ルカリオは声にならぬ声を上げる。
「ルキナのこと、どう思う?」
「あ…っと…」
慌てて姫へと返す言葉を探った。
もはや眠気など何処へやら。
「…その」
異様に二人の姫の視線を感じてしまう。
何かお返事をせねば。
そう思ってもうまく言葉にまとまらない。
懸命にルキナという名の女性の姿を描き、とにかく、褒める言葉を絞り出す。
「ゼ…」
『?』
「ゼルネアスのような足をお持ちの……女性…ですよね…」
お二人が言葉を失うのがわかった。
身体が強張る、顔が紅潮する。
…恥ずかしい。
だがすぐに、また柔らかな波動が軽やかな笑い声と共にルカリオを優しく包む。
「ゼルネアス…私たちのまだ知らないポケモンさんかしら?」
「ルキナを表す例えにするなんて、きっと、とっても美しいポケモンなのでしょうね」
やはりこのお二人の波動…いや、心は、海よりも広く、大空よりも高くあられる。
「ルカリオ、今度、会わせてくれる?」
「も、もちろんです、姫、喜んで…」
「また1つ楽しみが増えましたね」
穏やかな昼下がり、
ルカリオは姫君たちの紡ぐ暖かくも涼やかな音と色に、安らぎと共にほんの少しの恐れを抱くのであった。
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