10卒業
「卒業」
「え!?」
マルスのいきなりな言葉に、驚くロイ。
ロイは何をしたわけでもなく、
ただ、
呼ばれて、
『剣、振ってみて』
と、それだけを言われ、
とりあえず
剣を一筋振った。
それだけだ。
「今の、卒業試験だったんですか!?」
「うーん、まぁ、結果的にはそうかもね」
見た後のことなど、
何も考えていなかったかのようだ。
「僕に教わることは、もうないと思うよ。
綺麗に技がつながるようになったし、太刀筋にキレもでてきたし」
冗談ではなさそうだ。
「でも・・・・・・まだまだ師匠に教わることがたくさん・・・」
「お、久しぶりに『師匠』と呼んだね」
「!」
驚いて口をつぐむロイの様子に、
マルスはくすりと笑う。
「そんな呼び方するから、始めは遊びだと思ったんだ」
「す、すません、
そう呼んだほうが、気合も入るかな、って・・・」
「今は、どうなの?」
「今?」
「少し、心境も変わったんじゃないか?」
「・・・」
答えようにも、
答えたところで、全て見透かされているような気がして
「変わった・・・と思います」
正直な気持ちしか、言えなかった。
「何がかは、よくわかりませんけど」
「わからないくらいでいいんだ」
マルスが答える。
「今の気持ち、忘れないように、ね。
これが、『師匠』からの最後の教え」
「・・・」
ロイは、
少しだけマルスの目をみつめ、
それから、
さっと剣を収め、背筋を伸ばし
「ありがとうございました!」
マルスへと、深く頭を下げた。
終わったわけじゃない。
まだ、自分は弱い。
でももう、師弟関係はこれで終わり。
これから先に『師匠』はいない。
さらなる高みへは、自分1人の足で。
上げたロイの顔は、晴れやかなものだった。
その真っ直ぐな目に、マルスも満足げに頷く。
「何かあったら、また聞きにおいで」
「はい!よろしくお願いします、先輩!」
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