09無知なくらいがちょうどいい
「いい感じじゃん」
「そうだね」
話す二人、マルスとリンクが眺めるは、
サンドバック君を相手に技を繰り出すロイ。
丁寧に、確実に、でも力強く、
標的を攻撃していく。
「もう、剣で教えられることはなさそうだよ」
マルスは
ゆっくりとではあるが確かに腕を上げつつある後輩を見て言った。
「あとは、他のところかな」
「他?」
「軍を率いる者としてはまだまだなところが多いからね」
「『軍』って、俺、よくわかんないんだよな」
「ハイラルには、軍がないのか?」
「言葉自体を聞いたことない」
俺が知らないだけかもしれないけど、と軽く付け足す。
「それは、なにをするんだ?」
「国を守るのさ」
「・・・何から?」
「国から、さ」
「国から、国を守る??」
リンクは少し考えるようなそぶりを見せるも、
さっぱり意味が分からないようだ。
「・・・ハイラルには、国って概念自体がなさそうだね」
「考えたことがない」
「平和なんだな、ハイラルは」
「魔王いるけど」
「そうだったね」
マルスは、その『魔王』の顔を思い浮かべる。
あの人一人の存在が、
ハイラルという大国を脅かしているというのだから、すごい。
「『国』を守るために必要なことって、なに?」
そんな魔王に、やっぱり1人で立ち向かっているらしい勇者。
そいつが、他人事のように聞いてくる。
「リンクは?」
「え?」
「君が、勇者として、ハイラルを守るのに必要だと思うことは?」
聞いたはずが、聞き返され、
「俺の場合、守るって言うより、助ける、だからな・・・」
リンクは少し悩んで言う。
「とにかく、前に進むしかないんだ、俺はさ。
勇者だからとかじゃなくて、
自分ができること、ただやるだけだよ」
「そうか・・・」
答えになっているような、なっていないような。
そんなリンクの言葉を噛み締めるマルス。
「僕らはね」
マルスが、言葉を紡ぐ。
「進むだけじゃだめなんだ。
どこをどう進めば、仲間を失わずにすむのか。
考えてからでないと、進めないんだ」
呟くように話していく。
「彼らにも、彼らの進むべきところがあって
それは必ずしも僕と同じではない。
それでも彼らは、僕に続いてくれる。
なら僕は、それにどう応えればいいのか」
少し俯きかげんのその姿には、
いつも皆に見せている自信よりも、
過去に抱いた不安の色が濃い。
「ロイも、そうやって進んでいかなくちゃならないんだね。
マルスみたいに」
「そう」
リンクの言葉に、静かにうなずく。
「大丈夫だよ」
「?」
「結局、大切なのは、想う気持ち」
目線を横にやると、リンクは、笑っていた。
「必要なものは後からちゃんとついてくる。
足を鈍らすだけの知識なら、ないほうがマシ」
ロイを見るその目は穏やかなものだ。
「ロイなら、大丈夫だよ」
にっこりとリンクに笑いかけられ、
つられて、マルスも笑みを浮かべる。
そして
いったん剣を下ろしてサンドバックくんの様子を伺っている、
ロイをみやり
「そうだね」
いつものように、答えた。

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