08あなたまでの距離
「実戦、いってみようか」
唐突なマルスの話。
考えるどころか、驚く間もなく、
気付けばその舞台は整っていた。
目の前に立つは、フォックスとファルコの2人組。
「ヒマそうだったから」
『べつにヒマじゃない』
マルスは、2人ずつのチーム戦を提案した。
「なんでもいいよ」
「・・・めんどくせぇ」
「どうわけるんだ?」
「うーん、そうだな・・・」
マルスは思案するふりをして
「ロイ、君なら誰と組む?」
ロイに、求めた。
聞かれてとっさに答えが出ない。
「え、えと・・・」
だが、マルスはじっと、ロイの答えを待つ。
素直に言えば、マルスと組みたい。
そうすれば、
彼の剣技をじっくり見られる。
だが
それは、今求められている『正解』ではない。
そう、感じた。
「ファルコさんにお願いします」
ロイはマルスにそう告げた。
自分の名が挙がるのが意外だったか、
ファルコが、ほんの少しだけ、驚いた様子を見せる。
しかし、特に異論はないようだ。
マルスはフォックスに目配せをする。
こちらも問題はないらしい。
「決まりだね
じゃ、始めようか」
いつの間にか、4人、互いに向き合う形になっていた。
その中で、ロイ一人だけが、緊張の面持ちをしている。
『READY・・・』
『GO!!!』
合図と共に、動き出す。
その瞬間、ロイの目に映るは
自身に向けられた銃口。
とっさに飛びのくロイ。
もといた場所を一条の光が貫く。
その横で、ファルコはマルスに向かって地を蹴る。
マルスは動くことなくファルコを静かに見据える。
見えたのは、そこまで。
先程ブラスターを放ったフォックスが
ロイとの間合いを詰めてくる。
放たれる牽制の蹴りを、剣で受ける。
二撃、三撃と矢継ぎ早に繰り出される打撃を、一つ一つ凌いでいく。
・・・なぜマルスが、フォックス達を誘ったのか、わかる気がする。
彼らは、相手が誰であろうとけっして手加減をしない。
(されたいなんて思わないけどね)
さっと余計な思いは取り払い、相手の動きを見据える。
機を計り、そして
「そこっ!」
フォックスに、カウンターを仕掛ける。
急に攻撃に転じたロイに反応仕切れず、
フォックスは後方へと飛ばされる。
ロイはすかさず、追撃をかけんと、フォックスの懐へと飛び入る。
だが
「甘いなっ」
「!」
剣を振る前に、今度はロイが、弾き飛ばされる。
(リフレクター・・・忘れてた)
はったバリアを解き、倒れたロイを見下ろすフォックス。
だがそれも一瞬のこと、
フォックスは即座に次の行動へと身を移す。
大きく地を蹴り、ロイが体勢を整える前に
その横を駆け抜ける。
「!」
向かうはロイではなく、
その奥でマルスと対峙するファルコ。
気付いたマルスは、突然剣を引き、体を横に開く。
そして
マルスは、ロイへと視線をよこした。
フォックスを追わんとしていたロイの動きが止まる。
マルスは、剣を垂れ、静かな眼差しで佇んでいる。
誘いもせず、
煽りもしない、
ただ、こちらを見ている。
あぁ、この人までの距離は、こんなにも、遠い
いつになったら、どれだけいけば、
この距離は縮まるだろうか?
(違う、近づくんだ)
ロイは剣を構えなおし、
マルスへ向かい、駆け出した。
「なんか、喧嘩してません?」
「みたいだね」
2人は揃って、
奥で勝手に激しい銃撃戦を繰り広げている他2名をみやる。
「フォックスッ!てめぇはいっっつも姑息なんだよっ!!」
「ファルコが周りを見なさすぎなんだッ!!」
「んだとッ!」
両者の熱気あふれる掛け声が、あたりに響く。
「仲がいいのか悪いのか、わかりませんね・・・」
「これじゃ、もはやチーム戦とは言えないな」
呆れた口調のマルス。
「どうする?ロイ」
「はい?」
「まだ、終わったわけじゃない。
このまま僕と一騎打ち、する?」
聞かれて、ロイは
「・・・いや、やめときます」
素直に答えた。
「まだ、勝てませんから」
「そう?」
「もう少し、自信を持てるようになりたいんです。
先輩にだって負けないって」
「そうか」
「待ってて、もらえますか?」
「もちろん。いつまでも」
後輩の、しっかりした解答に、
笑顔で答える。
「僕も立ち止まってはいられないな」
「え?」
マルスが、剣に手をかけた。
「ジャマして来る♪」
「え・・・あ、あの?」
戸惑うロイを置いて、
マルスは、
フォックスとファルコの方へと歩き出す。
「・・・真似は、できそうにない・・・かな」
その背を、ロイは
追いかけようかどうか、ちょっと迷った。

next
Back