03仮病ノントロッポ
「百十五・・・・・・百二十・・・」
数えながら、ひたすらに剣を、一点に向け振るうロイ。
「百三十・・・百五十、じゃない・・・えと百四十・・・」
脇目も振らずに、素振りを続けている。
それを、
マルスはただ座って眺めていた。
(できるとこまで・・・なんて言うんじゃなかった)
手元の、自分の剣を眺める。
(・・・僕だったら何回やるかな?)
考えてしまう。
おそらく、
意地とキリのよさで、百まで。
まだできるかと聞かれれば、
「はい」と答えて、もう百。
そんなところか。
(ロイは、どこまでやるだろう?)
実は、マルスは、
自分がロイに劣る要因をいくつか持っていることに気付いていた。
例えば
『力』においては、マルスのほうが若干劣っている。
剣も、彼のもののほうが大振りで、扱い難い分、威力に勝る。
もし純粋な力勝負になったら・・・
マルスがロイに勝つのは難しいだろう。
もちろん、
普段の乱闘では、そのような事態そのものを回避するようにしているわけだが。
もちろん、それはロイに対してだけではない。
リンクやその他、多くの相手に対して言えることで、
彼だけが特別なわけじゃない。
(なぜ・・・ロイは僕に勝てないんだろう?)
ふと、疑問に思った。
「先輩・・・?」
「!」
「あ、違った、師匠」
気がつけば、
ロイが、素振りをやめてこちらをのぞきこんでいた。
その顔が少し、心配そうだ。
「・・・何回?」
「二百二十五です。・・・」
「だいじょうぶ、少なくはない」
「・・・よかった」
ひとまず安堵の色を浮かべるロイ。
「じゃぁ・・・」
「師匠」
「?」
「お疲れではないですか?」
「どうして、そう思うんだ?」
「い、いえ・・・」
言いよどむロイに、
マルスが穏やかな視線で促す。
「・・・ずっと、付き合っていただいてるから・・・
先輩、お疲れでなのは、と・・・」
物怖じしながらも、ロイが言う。
「・・・」
マルスは、微笑を浮べ、
立ち上がって、ロイの頭へ手をやった。
「先輩?」
「ごめん、調子、悪いみたいだ。
今日はここまでにしよう」
あっさりと、その場を放棄して
立ち去ってしまおうとするマルス。
「!せ・・・じゃない、師匠!?」
予想もしていなかった彼の行動に、ただ戸惑いを見せるロイ。
(まっすぐすぎるんだ、きっと)
真面目で、素直で、曲がったところのない、僕の後輩。
彼の全てが、
僕に勝てない原因であり、
僕が彼によせる期待の源でもある。
「物足りなければ・・・
リンクにでも、師事してみるといい」
かわいい弟子をその場に残し、
マルスはさっさといなくなってしまった。
(リンクなら、何を教えるだろう?)
そう考えて、
ちょっと笑った。

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