「なんだ、あんま変わらないじゃない」 「なにを期待してた?」 「逆。異次元って言うから、もっとヒドイ所かと思った」 「いったいどんな想像してたんだ・・・」 そんなことを話しながら、 地に降り立った者たちは 目前に広がる『異次元』の光景を眺めている。 「・・・ねぇ、あんまり長居してちゃ、まずくない?」 そのうちの1人、背の低い子が、おずおずと話す。 「なんで?」 「・・・目立つよ、この格好で、5人も並んでる」 「まぁ・・・たしかに」 金髪の青年は、横に並ぶ者達を眺め、相槌を打つ。 「・・・そうか?」 隣の青い髪の青年は、どうやら自覚がない様子。 「ボクたち、どこ行ったらいいのかな」 「どこでもかまわんだろ」 「どこでもって・・・」 「マスターは、適当にまわって来いと言った。 それに従うほかない」 「・・・なんか、テンション低くない?」 「・・・・・・・・・気が向かない」 「そうだよなぁ、いきなりだったし・・・なぁ」 今一度、自身の姿を思い出して 軽いため息をつく。 彼の姿は、普段とはまったく違っていた。 黒っぽい犬のような耳と、同じ色の尻尾。 いつもの帽子も、今はない。 「なんか、中途半端だし」 「どこが?完璧な狼男だよ、見た目」 「どうせなら狼そのものにしてくれればいいのに。 そのほうが楽だ」 「普通じゃないよね?それは」 「おまえはあんまり変わってない様に見えるんだけど? マスターに手抜きされた?」 「そんなことない!全然違う!」 「だって羽と服が黒いだけじゃん」 彼の言うとおり、 天使の羽は漆黒に染まり、その服もまた真っ黒。 「黒い羽なんて、僕には似合わない!」 「そんなことないよなぁ」 皆に同意を求めると 他3人はそれぞれ肯定の仕草を見せる。 3人もまた、普段の姿からは思いもつかぬ格好をしていた。 青い髪の青年は、きっちりしたシルエットの黒マントを羽織り、 口には小さく牙が見えている。 1人だけおどおどした様子を見せる少年は、 全身に包帯を巻きつけられており、 その隙間からわずかに青い瞳と金の短い髪を覗かせている。 そしてもう一つの小さな影は、 白い布を纏い、頭にはカボチャのかぶりもの、 中身はまったくわからない。 「これ・・・ほどいたら怒られる?」 「だいじょぶだよ、きっとほどけない」 「・・・動きにくいよ」 「でもきっとお菓子はもらえる」 「ゼニッ!」 「そうだね、キミもきっとたくさんもらえるよ」 「ゼニィ〜」 カボチャの下からあがる、幸せそうな声。 「さぁて、それじゃ、行こうか」 5人は改めて目の前の景色へと向き直った。 彼らがここに来た目的、 それは、マスターからのある指令。 『誰からでもいいし、1人1個でいい。 とにかくあっちの参戦者たちからお菓子を貰っておいで』
「・・・なんで?」 短い問いを投げかけるリンク。 対するマルス、 「ごめん、はずした」 答える顔に、反省の色はあまりない。 「それって俺狙ったってこと!?」 「ロイを狙うわけないじゃないか」 しれっと言ってのけるマルス。 そのロイは、リンクの横で頭を抱えてしゃがみこんでいる。 そしてそれを眺めるカービィ。 「ロイ〜、だいじょぶ〜?」 「だ・・・だいじょぶ」 頭をさすりながらも立ち上がる。 少し痛い。 が、神殿を吹き抜けるハイラルの風が心地よい。 「先輩・・・、なんなんですか、これ」 尋ねる手には、棒付きのキャンディーを持っている。 ・・・つい先程、 マルスがリンクに向かって投げ、ロイの頭にあたった物。 「お菓子だよ、見たとおり」 「だからなんで菓子なの?」 「ハロウィンだって」 「・・・ハロウィン?」 「マスターがくれたんだよ!」 カービィが答える。 「皆にね、配っておいで、って言われたの〜」 言って、手に持った物をリンクとロイに向ける。 オレンジ色のカボチャ型の籠。 その中にはキャンディー、チョコ、マシュマロ・・・ リボンで飾り付けられた様々な菓子たちが詰め込まれている。 「はい☆リンクの分、どうぞ〜」 「ありがと」 カービィから、リンクもチョコレートを受け取る。 「・・・よく、がまんしてるね」 即行でカービィに食べられそうな品揃え。 ロイがつぶやくと、カービィは 「ちゃんと後で、おいしいものいーーーっぱいくれるって」 と、目を輝かせた。 「交換条件か」 「さすがマスター」 「先輩は?」 「なにがだい?」 「マルスが、マスターの手伝いをタダでするとは思えないよな」 「いや、僕は、カービィがマスターに呼ばれたって言うから、 ついていってみただけ」 「・・・物好きな」 「マスターってば、真実を教えてくれないんだ」 「真実?」 「あの人が、なんの裏もなしにこんなことすると思えないよ」 「そうかな?マスター、意外と遊び好きだよ」 「・・・気になることも言っていた」 「?」 マルスに、視線が集まる。 それらを見詰め返し、 少し間を置いて・・・ ・・・言った。 「菓子を狙って、5人の怪物がやってくる、と」 「怪物・・・」 「それ、誰のこと?」 「さぁね」 リンクの問いに首を振る。 「ここの参戦者には、ちゃんと全員に菓子を配ったよ。 ね、カービィ」 「・・・」 「?」 「マルス、まだだよ」 「あ、そうだった」 カービィから、マルスもマシュマロを受け取った。 「これでお仕事おしまい!」 「全員ってさ・・・ ミュウツーやガノンドロフにまで配ってるの?これ」 「もちろん」 「受け取ってくれました?」 「受け取らせたさ。 怪物の話もしたけど、 2人とも『くだらない』って、その場で食べちゃったよ」 「付き合う気なし、と」 「そうみたいだね」 と、 「!リンク!なんかいるよっ!」 急に、カービィが声をあげる。 3人は、それぞれに目つきを変え、カービィの指す方に注目する。 そこにいた者は・・・ 「獲物、みーつけた」 こちらの表情とは裏腹に 楽しそうな声をあげる、来訪者。 茶色の髪に、青い瞳、 そして 背に大きな漆黒の羽を背負った少年。 手には不思議な光を放つ、2本の剣。 4人の、特に、リンクの目つきが険しくなる。 それに気付いているのか、いないのか、 天使の格好の少年は、 彼らのほうへと静かに歩み寄った。 「トリック・オア・トリート、ってね」 涼しげな声が、神殿の空に響いた。 「・・・」 「・・・」 目の前に現れた者を ただただ不思議そうに眺めるピカチュウ。 見詰められて思わず後ずさる、 同じくらいの背丈のカボチャのオバケ。 「・・・」 しばし続いた沈黙の時。 たまりかね、 オバケは背を向け逃げ出そうとする。 「!・・・ピッカ!」 だがピカチュウに呼び止められた。 恐る恐る振り向いてみると ピカチュウは、 オバケへとその手を差し出している。 手のひらの上には、数個のあめ玉。 「・・・」 カボチャ越しに、再びピカチュウと目を合わせると ピカチュウは、ニコッと笑った。 「今日もいい天気ですねぇ〜」 晴れ渡る空を見上げ、ヨッシーが言う。 「いつもいい天気だろうが、ここは」 「天気がいいのは気持ちのいいことですよね〜」 ファルコのそっけない答えにも、 ヨッシーは気を悪くなどしない。 「ファルコさんはいつも空を飛んでいるんですよね」 「まぁな」 「天気がいい日のほうが、うれしくないですか?」 「宇宙じゃ関係ねぇよ」 「そうなんですか〜?」 2人がのんきに話をしていると、 『!』 彼らの前に、2つの影が現れる。 黒いマントの青年、 そして、 その足元にぴったりしがみついている、包帯に巻かれた少年。 「なんだ、てめぇら」 ファルコが言葉を投げつける。 初対面の相手に、敵意を隠しもしない。 彼の鋭い目つきに 少年が怯えた様子を見せる。 対照的に、青年のほうはまったく動じず、 「悪いが、名乗っているヒマはない」 低い声で言い放ち、 ファルコのことを見下ろす。 負けじと睨み返すファルコ。 あっというまに、 辺りが緊迫した空気で満ちる。 「・・・ファ、ファルコさん、喧嘩しちゃダメですよぅ?」 後ろでヨッシーは、心配そうにつぶやいた。 「ヤバイ・・・」 1人、石壁に隠れて呟く狼男。 そっと顔をのぞかせると見えるのは、2人の女性。 彼がいることに気付いている様子もなく、 仲よさげに立ち話を続けている。 「あれ、どう見ても、ピーチ姫にゼルダ姫だよな・・・」 自分の知る姿とは若干違う、2人の姫。 「・・・ピーチはともかく、 ・・・・・・ゼルダ姫は・・・・・・・・・」 ・・・ べつに、 正体は隠しとけとか、 『こっち』のリンクやゼルダとは会うなとか、 マスターからも言われていない。 なのだが・・・ 「・・・やっぱり、会えないよなぁ」 気付かれないうちに立ち去ろうと決めた、その時 「あら?」 こちらへ、ピーチが視線を向けた。 慌てて影に隠れる。 「どうかしました?ピーチ」 「誰かいるような・・・。フォックスかしら?」 「フォックス?」 「しっぽが見えたの」 ゼルダまでこちらに気付く。 今にも近寄ってきそうな2人。 どうにか逃げられないかと、あたりを見回す。 目の前にさっきからいる、島を背負ったカメと目が合った。 ・・・だが、すっと視線をそらされてしまう。 (・・・ど、どうしよう) 波の音が静かに響く。 狼男は困って、 思わず空を仰いだ。
「誰・・・」 「あ!あんた、リンクって名前だろ?」 リンクの姿を見るや、天使はその名を口に出した。 「!なんでリンクのこと・・・」 「ロイ」 ロイの言葉を遮るリンク。 そして代わりに、天使に問いかける。 「何しに来たんだ?怪物サン」 「怪物?失礼な」 天使は不満そうな声で返す。 「どうみても天使サマだろ?」 「羽の黒い天使なんて、僕は知らないな」 「こ、これは・・・」 マルスに自分の格好を指摘されると、言葉に詰まる。 そんな彼の様子を、 マルスはフッと笑って 「君は、これが欲しいんじゃないか?」 自分の菓子を、見せた。 「あ!それ」 明らかに『当たり』の反応を見せる天使。 「あげないよ」 「!お前・・・」 「怪物に、自分の大事な菓子をやる必要、ないだろ?」 「・・・」 マルスの態度に、 天使が、怒りの情を表し始める。 「マルス、わざわざ挑発することない」 小声で、リンクがマルスを諌める。 するとマルスも、小さくリンクにささやく。 「君は、あれが『ここ』を侵す者か知りたいんだろ?」 「そうだけど、まだ・・・」 「人を知るには、剣を交えるのが一番。 それに」 と天使の手元に目をやる。 「気になるだろ?あの剣」 「・・・・・・まぁね」 彼の手に握られた、2本の剣。 リンクも、マルスの言葉を否定はしない。 「喧嘩はしないよ、あくまで手合わせ」 「・・・わかった、とりあえず、任せる」 リンクの言葉を受け、 マルスは天使へと目を戻す。 「僕らは、菓子を渡す気がない。君はもらわなきゃならない。 ・・・どうする?天使君」 「それ、どう意味?」 「先に剣を抜いたのはどっちかな?」 「・・・あ」 天使は、やっと 自分がすでに剣を抜いてしまっていることに気付いたようだ。 「性格悪いね、そんなんじゃ天国いけないよ」 「天国なんてほんとにあるかわからないだろ」 「へぇ・・・」 目を細める天使。 「・・・・・・なんか先輩・・・」 「楽しそう、だな」 「・・・ほっといて・・・?」 「ま、だいじょぶだろ」 リンクは 天使への警戒はそのままに、 じっとマルスを見守る。 「天使を目の前によく言うね」 「堕天使に言われたくないよ」 「言うなッ!」 「だって見るからに・・・ねぇ」 「いや俺たちに振らないで、怖いから」 マルスの流し目を手で払うリンク。 「・・・こっちが我慢してるのいいことに」 とうとう堪えきれなくなったようだ。 「僕を怒らせたこと、後悔しろッ!」 声と共に天使が地を蹴った。 マルスの目が、笑う。 ・・・と、 彼は 「はい、がんばって」 横に立っていたロイを、 いきなり前へと押し出した。 「・・・・・・えええぇっ!!!」 慌てふためくロイ。 しかしすでに天使の剣が目の前に迫る。 考える間もなく、 とっさに自分も剣を抜き、それを受けてしまう。 2人の剣士の視線が交わる。 ・・・相手は本気のようだ。 そして、 その剣を受けてしまったロイも、 もはや引くわけにはいかなかった。 「・・・配り終わって、残ってる??」 剣士たちの後ろで、 1人、カボチャの中身を不思議そうに眺めるカービィ。 まだまだ、たくさんの菓子が残っている。 「って・・・ことはぁ・・・」 ・・・もちろん、 『1人1個』ではなかった、ということなのだが・・・ 「食べていいってことだよねッ!!」 カービィにそんな常識はあるわけもなかった。 「リュカに、アイクですね〜」 「あなたは、ヨッシー?」 「リュカさんよくご存知で」 「会ったことあるんだ、別のところで」 「わたしの仲間はたくさんいますからねぇ」 ほんわかとした雰囲気で会話するヨッシーと少年。 そんな横で、啖呵をきるわけにもいかず ファルコは憮然とした顔でたたずんでいる。 「お前は・・・」 「あぁ?」 青年のほうに話しかけられ、 不機嫌な声で答えるファルコ。 だが青年は気にする様子もなく言葉を続けた。 「フォックスの仲間、か?」 「・・・なんでアイツのこと知ってやがる」 「会ったことがある・・・としか言えん」 短い言葉を無愛想につづる青年。 姿こそ怪しいが、 そこに敵意や悪意は見受けられない。 「・・・人か獣かと聞いたら、 ただのキツネだと言っていた」 「バカな答えだ、アイツらしい」 「お前なら、なんと答える?」 「・・・さぁな、聞きたきゃ聞け」 ファルコのほうも、喧嘩腰はやめたようだ。 落ち着いた口調で青年に答える。 「リュカさんたちは、どうして『ここ』に来たんですかぁ?」 「それがね、お菓子、もらって来いって言われて・・・」 「あぁ!これですね?」 ヨッシーが、自分のクッキーを取り出した。 「やっぱりお前らが『怪物』か」 「怪物?」 「菓子をねだりに来るとか言ってたぞ」 「・・・菓子より、飯が食いたいんだがな」 「でも・・・お菓子もらわないと、帰れないよ」 「そうなんですか?」 「うん」 少年が、声を落とす。 それを見てヨッシーは和やかに微笑んだ。 「ファルコさん、あげちゃっていいですよね?」 「どうして俺に聞く?」 「だって・・・」 ヨッシーの言いたいことはなんとなく分かった。 2人が菓子を必要としている。 こちらも、2人しかいない。 「・・・・・・ったく、しょうがねぇ・・・」 ファルコは、 カービィから配られたマドレーヌを、青年へと放った。 それを見て、 ヨッシーもにっこり笑って、少年にクッキーを渡した。 「すまん」 「とっとと帰れ」 「あぁ、そうする」 つれない挨拶を交わす、ファルコと青年。 「ありがとう」 「またお会いできるといいですね」 「うん」 少年が小さくうなずく。 「アイクさんも」 「・・・」 言葉こそ出さないが、 青年も、ヨッシーに、静かな笑みを返した。 そして2人は、ヨッシーとファルコに背を向ける。 「・・・あ、」 と、何かを思い出した青年。 「どうしたの?」 「言い忘れてた」 彼は肩越しに振り向き、 背後の2人へと言葉をやった。 「トリック・オア・トリート」 「・・・遅ぇよ」 「はぁっ!」 2本の剣によって威勢よく繰り出される剣技を、 ロイと交代したマルスが、剣で受け流す。 そして後ろを取って、天使に斬りつける。 続く2人の攻防、 それを少し下がった位置で見学する、リンクとロイ。 「ロイ、もういっちょいく?」 「もういいよ・・・」 疲れた様子で言葉を返すロイ。 「いい機会じゃないか」 「リンクだって、行きたいんだろ?」 「まぁね」 答える彼の顔に、 最初の警戒心は見受けられない。 「天使だけあって、綺麗な剣を振るよね」 かわって現れ始めた、好奇心。 「どうだった?」 「やっぱり、空から来られると強いよ」 「『ここ』にはいないタイプだね」 「うん」 「リンクっ!」 マルスの声が響く。 彼らに目を戻すせば、 天使は神殿の遥か高き所に立っていた。 「パス!」 言って、マルスは自身の頭上へと 手にした菓子を放り、同時に後ろへと下がる。 「おぅ!」 それに応えて、 リンクは背中の剣に手をかけ、 前へ跳び出し、菓子を受け取る。 そして一息つくかつかぬかのうちに、 剣を抜き、天使のいる方へと向い、 高く跳びあがった。 「あれ?」 「どうかした?ロイ」 「いや、カービィ、どこ行ったかな・・・と」 「あぁ、カービィなら・・・」 マルスが、背後を目で指した。 「・・・」 いつのまにやら、 幸せそうな笑顔で寝ているカービィ。 カボチャからあふれんばかりに積まれていたお菓子が、 今はもう、見当たらない。 「・・・やっぱ、そうなるのか」 「このワンちゃん、おとなしくてカワイイ〜」 黄色い声をあげ、黒い獣を撫でるピーチ。 四足のその獣はおとなしく、 ピーチにされるがままになっている。 『おすわり!』と言われ、 素直に座って見せると、ピーチはますます喜んだ。 「・・・犬・・・ですか?」 「違うかしら?」 「オオカミに見えません?」 疑いながらも、ゼルダの方も恐れている様子はない。 「いわれて見れば、そうかもしれないわね」 「危険では・・・」 「おとなしいオオカミなんて、犬と同じよ」 狼にとって、少々耳の痛い言葉。 ちょっと反論したかったのだが、 意味もないのでぐっと堪える。 「そういえば、マルス様が言ってましたね、 お菓子をくださった時に」 「なんか言ってたかしら?」 「『菓子を狙って怪物が来ます』と」 「・・・言ってたわね、そんなこと」 「この子がそうなのでは?」 「そうなの?ワンちゃん」 ピーチに問われたので、 うなずいてみせる。 「じゃぁ、これ・・・」 と、菓子を取り出そうとするピーチ。 「よいのですか?」 「え?」 「先程お話なさっていたではないですか。 菓子を狙う魔物から、マリオに守ってもらうって」 「・・・だってマリオ、見つからないんだもの」 少し、ふてくされた顔をする。 そんなピーチを見て 「きっとマリオも、貴方のこと探していますわ」 ゼルダは優しく言葉をかける。 そして、 「この子には、私から」 自分のお菓子、ドラジェを取り出して、獣に差し出した。 細い手に乗せられた、甘い香りのお菓子。 獣はできるだけ丁寧な仕草で、それを口にくわえる。 「ゼルダこそ」 「え?」 「リンクに、守ってもらいたいでしょ?」 唐突に出た、自分と同じ名前。 わかってはいても、一瞬、反応してしまう。 「・・・彼のことです。 もう、魔を払っていますよ、きっと」 ゼルダは、微かに寂しげな笑顔を浮かべる。 「リンクはリンクなりに、 ゼルダのこと大切に思っているのよ。 でもそれ以上に、あいつは世界を大事にし過ぎだわ」 「それは・・・」 「ゼルダもよ!2人とも、もっと自分のこと考えなきゃ」 「・・・ありがとう、ピーチ」 「そうだ!ゼルダ、こうしましょ。 リンクにはお菓子取られちゃったことにして、 『じゃあ俺のあげるよ』ってもらって、 『なら半分こして♪』って言うの」 「・・・リンクと、半分こ?」 「そう。それでね・・・」 女の子の会話が弾みだす。 そっと、 その場を離れる獣。 (助かった) 2人の目の届かぬ影へと入り、胸をなでおろす。 (月で、狼になれるなんて・・・ マスターも教えてくれりゃいいのに) 空を見上げると さっき見えた月が、さらに地に近づいている。 (不気味な月だよな・・・ 昼間でもはっきり見えて、さらに顔があるなんて。 まぁ、おかげで助かったけど) 口には、ゼルダのくれた菓子をしっかりくわえている。 これで目的まで達成できてしまった。 (・・・・・・・・・優しかったな、ゼルダ姫) 菓子をくれた時のあの微笑を思い出し、 思わずにやけてしまう。 (・・・って、ふけってる場合じゃない! 皆のこと探さなきゃ) 獣が、走り出す。 (でも・・・ ヒトにはどう戻ればいいんだろ?) キンッと 甲高い音があたりに響き、剣と剣がぶつかり合う。 互いに余裕の笑みを見せ合う、リンクと天使。 だが、力負けし、 天使がほんの少し後ずさる。 見逃さず、リンクが一閃、なぎ払った。 飛ばされる天使。 そこへ更に追撃をかけるリンク。 だが天使は素早く体勢を整え、高く飛び上がった。 剣を弓に組み変え、リンクへ向けて矢を放つ。 リンクもまた、盾で防ぎつつ、ブーメランへと持ち替えた。 あっというまに高い場所へと移動している天使。 投げつけられたブーメランをかわしながら、 再び剣に持ち替え、 いざ、飛び降りんとした・・・ その時 「ピット!!」 初めて、彼の名が呼ばれた。 思わず剣をひく天使。 リンクも、 そしてマルス、ロイも 声のした方に目をやる。 現れたのは、黒いマントの青年。 傍らには包帯に巻かれた少年もいる。 「あ・・・・・・アイク・・・リュカ」 天使は、彼らの名を呟いた。 戻ってきたブーメラン、 リンクも、それを再び投げようとはしなかった。 「ピカピカッ!」 「ゼニィ〜、ゼニガメゼニ」 「ピィカチュ?」 もはや、カボチャも脱いで ピカチュウと楽しげに話しているオバケ。 「ゼニガメ!」 かけられた声に、振り向く。 「よかった、見つかって」 安堵の表情を浮かべながら走り寄ってくる、狼男。 どうやら、ヒトには戻れたようだ。 「お菓子、もらえた?」 オバケに聞くと、 「!・・・ゼニ」 こちらはそんなこと、さっぱり忘れていた様子だ。 「ピカチュ?」 と、ピカチュウが、再び自分のあめ玉を出す。 「ピカ、ピカチュ」 ピカチュウは、オバケにそれを差し出した。 「ゼニゼニ!」 「ピカピカ」 ありがたくもらって、オバケは礼儀正しくおじぎをする。 「ありがとな、ピカチュウ」 「ピッカ!」 「さ、帰るよゼニガメ」 「ゼニ」 狼の言葉にうなずく。 そして、 ピカチュウと別れの挨拶を交わした。 「何をやっている」 「だって!あいつら・・・」 「誰も乱闘していいと言っていない」 「ダメとも言われてない!」 地へと降りてきた天使、 吸血鬼の格好の青年に言い返し、リンクたちを睨みつける。 睨まれて、リンクたち3人はそれぞれ顔を見合わせる。 「あんたら・・・」 青年の視線が3人に移る。 厳しい目つきの、見知らぬ吸血鬼。 ・・・天使との乱闘をこちらから持ちかけてしまった分、 少し、引け腰になってしまう。 だが 「・・・迷惑をかけたようだな」 意外にも、謝られた。 「すまなかった」 「いや、こちらこそ・・・」 軽く頭を下げる青年に つい、謝り返してしまうリンク。 「帰るぞ、ピット」 「・・・まだ、お菓子、もらってない」 目的を思い出し、 同時に自分の軽はずみな行動に気付いたか、 口調が落ち込み気味だ。 すると、 「これ、だったよな」 リンクが、 乱闘中に持っていた菓子はマルスへと返し 代わりに自分のチョコレートを取り出して、天使へと投げた。 受け取るも、あっけに取られた様子の天使。 「あ、リンク、ずるいよ!」 言いながら ロイも、キャンディーを天使に投げ渡す。 「はじめっからマルスがちゃんとあげてればよかったのさ」 「気安く人にあげるもんじゃないだろ」 「だから性格悪いって言われるんだよ」 「そうだね」 そう言って マルスも、リンクから受け取ったマシュマロを天使へと投げた。 「あ・・・」 呆然と、天使は3人を眺める。 「楽しかったよ」 「悪かったね、挑発して」 「また、相手してくださいね」 代わる代わるに言葉をかける3人。 「あ・・・ありが、とう・・・」 顔を赤らめ、 呟くようにお礼の言葉を搾り出す。 素直になりきれない天使をみて、 青年が、静かに笑みをこぼした。 「!なんだよアイクッ!」 「いや・・・」 「リュカも!こっそり笑うな!」 「だって・・・」 顔を合わせて、笑う二人。 「おーいッ!」 と、遠く後方より声がかかる。 「!」 リンクたちには、聞き覚えのない声だ。 「帰るぞ」 それに応じて、身をひるがえす青年。 「うん」 「またね、お兄さんたち」 黒マントのあとに続く、天使と少年。 ロイが、小さく少年に手を振る。 「お菓子は?」 現れた狼の言葉に応え、 足は止めず、青年が菓子を見せる。 「ばっちりだな」 少年や天使とも目をあわせ、満足げに言う。 彼らも、歩みを止めぬ青年の背につき、 5人そろって歩き出す。 「リンクがいるぞ、ここの」 「え、マジ?」 「会っていかなくてもいいか?」 「いいよ、別に」 軽くあしらう狼男に 「なんで?」 天使が茶々を入れる。 「もしかして、逃げてる?」 「うるさいよピット」 「・・・会うことになる、そのうち」 「・・・だろうね。でも今じゃなくていい」 「そうか」 「つまんないの」 「お前は十分遊んだだろう」 「え、何したの?」 「こいつ、向こうの剣士達と乱闘してた」 「なっ!ずるい!」 「じゃーやってけばいいじゃん。 先輩リンクもいることだしー」 「馬鹿を言うな」 「そうそう、菓子がもらえりゃそれでいーの」 「2人も、ほんとはやってみたいくせに」 「お前と違って我慢と言うものを知ってるんだよ、な、アイク」 「・・・まぁな」 5人が足を止める。 道が終わり、目の前に広がる広き空。 「帰ろう、俺らの居場所に」
「いなくなったな、5人とも」 「結局、名前くらいしかわかりませんでしたね」 「ピットに、アイク、リュカ・・・か」 「奥に現れた2人は・・・」 「ゼニガメとリンク」 「!」 リンクの言葉に、ロイもマルスも驚きを隠さない。 「リンクって・・・リンク?」 「さぁ」 「言い切ったくせに、曖昧じゃないか」 「ただの勘だよ」 「じゃ、ゼニガメっていうのは?」 「ポケモンに、カメックスっているじゃん? あれの進化前のやつらしいよ」 「よくわかったね」 「ポケモンは鳴き声でわかる」 「鳴き声なんて聞こえました?」 「・・・僕らの耳じゃついていけないな」 マルスが肩をすくめて見せる。 「あいつら、また来るかな」 「マスターに聞いてみれば?」 「いやだよ、そんなの」 「どうして?」 「楽しみが減る。それに教えるとも思えないし」 「確かに」 「お菓子配りも、どちらかと言えば彼らのためってことですか」 「だろうね」 人騒がせな・・・ 思いながらも、笑ってしまう。 「さぁてロイ、続きやろっか」 「・・・は?」 「俺、中途で帰られちゃったからさ」 「元気だね、リンク」 「マルスでもいいんだけど?」 「うーん、じゃぁ」 マルスが、意地悪くにやける。 「たまには二対一で」 「あ、僕も賛成」 「・・・え、マジで?」 「マジ」 「ほら、言いだしっぺなんだから」 「わかったわかった、もういいよ、それで」 「やった!先輩と組める!」 「足、引っ張らないでね♪」 「・・・は、・・・はい・・・っ!」 「おかえり、ゼニガメ」 「ゼニゼニィ」 自分の主人のもとへと戻り、さっそく甘えるゼニガメ。 トレーナーがそれを抱き上げる。 「楽しかったみたいだね」 「君も一緒に行けばよかったのでは?」 「僕はいいよ、ああいうの、苦手だし。 それにこいつもたまには一人歩き、させないとね」 優しくゼニガメを撫でる。 「まためんどうな遊びをさせたもんだな」 呆れを含んだ口調で言うのは、フォックス。 「マスターは、こういうのが好きなのか?」 「あの人はなんでもありなんだよ」 「ふむ」 マスターハンドをよく知るフォックスに比べ、 その隣に立つ、メタナイトのほうは いまだマスターという存在を理解しきれぬ様子だ。 「とにかく、我々の心配は杞憂に終わったようだ」 「予定外に、ばたばたしてたけどな」 「特にピット」 「そうだな・・・」 「俺はファルコが特に心配だったんだが」 「今にもアイクと喧嘩しそうだったって?」 「ほんと、気が短いんだよ、アイツ」 フォックスがため息をついた。 「そろそろ、我々も帰ろう」 「そうだな」 「ミュウツーに会いたかったんだけどなぁ」 「マスターに言えば、また来られるさ」 フォックスの言葉に、笑顔で答えるトレーナー。 ゼニガメを地面へ下ろし、 「ゆっくり休むんだよ」 言って、モンスターボールへと戻す。 「帰ったら、俺たちもゆっくりできるといいんだが」 「フ、もしかしたら、 向こうでも騒いでいるかもしれないな」 「・・・勘弁してくれ」 「いいじゃない、楽しいハロウィンってこと」 「まぁ・・・な」 せっかくの季節行事も、 フォックスには何かと心配事が絶えないらしい。 「あーーーいたいた!」 「!」 いきなり、こちらへと向けて走ってくる、丸い影。 「メタナイト!それに、フォックスと知らない人」 「カービィか・・・」 「どうした?」 問われ、カービィは 「マスターが、ちゃんとお土産渡しなさいって〜」 手にしているカボチャの籠を 3人へと向ける。 覗き込むと、 ちょうど、お菓子が3つだけ残っている。 「ハッピ〜ハロウィ〜ン!」 楽しげな声に、 3人の顔も綻んだ。