「・・・」 じーーーっと、 ただ一点を見つめ続ける、ロイ。 「・・・」 その視線の先で、ただただ回る物。 「・・・」 それは、奇麗に回り続けている。 描かれた赤や青の模様が混ざり合って、 なんとも言い難い不思議な色合いを醸し出している。 それは回転によって重心を保ち、 まるで静止しているかのようにも見えた。 「・・・」 魅入られて動かないロイに対し、 「・・・・・・それで?」 ついに堪えきれず、マルスが尋ねる。 「・・・回るのはわかっただろ?」 答えるのはリンク。 左手には一本の紐、そして 右手には、一枚の板。 水平に保たれた羽子板の上に、回り続ける例の物。 「・・・なにか、違うような気がするんだけれど」 「でもほかにどうすればいいんだ」 「ここにまだ物も余ってるし」 と、マルスが手のひらに乗せたものを見せる。 黒い玉に赤・青・緑の羽根がついたもの。 「これも回すわけではないだろう?」 「・・・回せなさそうだよな、さすがに」 「板だってもう一枚ある」 「・・・」 リンクは悩みながら、 マルスに紐を渡し、代わりに板を受け取った。 左手の板も右と同じく水平に構え・・・ 「はっ!」 短い息、小さな動きとともに、 それは回り続けたまま宙を舞った。 そして カンッ 固い音、 リンクの左の板の上に、それはみごとに着地する。 もちろん、回り続けたまま。 「・・・すごーぃ」 ロイが静かな感嘆の声をあげる。 他2人はというと 「・・・」 「・・・」 「やっぱり・・・」 「違うかな?」 技はうまく決まったものの、いまいちしっくりこない様子。 「でもこれが、リンクの言うとおり、回すものであるのは確かじゃないですか? こんなに綺麗に回ってるし」 「でもこっちの板と羽は?」 「・・・えと」 「一緒に出てきたんだし、一緒に使うんだよな?」 リンクが右手のものを見やった。 マルスもロイも異論は唱えない。 確かに 独楽、紐、羽子板、羽根 これらは全て一緒に出てきた。 普段使う、他の『アイテム』と同じように。 「そもそも、なんなの?」 「武器になるとは思えないな・・・」 「・・・でも花だって、武器には見えませんよ」 「リップステッキ・・・ファイアーフラワー・・・ ・・・たしかにね」 「じゃぁ、これも武器になるかもってこと?」 「・・・」 考えても、らちはあかない。 だんだん独楽が大きく左右に揺れるようになってくる。 気づいて、リンクはそれが板から転がり落ちる前に手中に収めた。 「ロイもやってみる?」 「できる気がしないけど」 「だいじょぶだよ」 独楽をロイに渡す。 マルスも持っていた紐をロイへとよこした。 何事も観様見真似。 さっきリンクがやっていたように、紐を巻いてみる。 「こんなんでいいのかな」 「いいんじゃない? そしたら」 「そうしたら?」 「投げる」 「・・・わかんないよ」 「ただ投げればいいんだよ」 「絶対違うと思う。ちょっとやってみせてよ」 「え?せっかくロイが巻いたのに?」 「いーから」 「しょうがないなぁ」 またも独楽を手にし・・・ 「ほんと、投げるだけだって」 言うとおり、 思いっきり独楽を放り投げる。 握った紐から離れ、回り始める独楽。 「あ」 「・・・どこに向かって投げてるんだ」 「・・・考えてなかった」 力いっぱい放られた独楽は いったん地に着いたものの 大きく跳ねて、宙を舞い 「!落ちる・・・」 とっさに、ロイが地を蹴り手をのばす。 そして 「あ」 気がつけば、足をつけるべき地面はどこにもない。 独楽と共に ロイまで一緒に落ちていく。 「・・・前にもこんなことあったような」 自分でもあきれながら 果ての見えぬ暗闇へと落ちていく。 すぐに戻れると思っていた。 だが、 目の前に広がる光景は まるで見たことのないもので。 「・・・あれ?」 周りの風景は、町のようだ。 見たことのない町並み。 規則的に植えられた、幅の広い葉を数枚だけ広げた木々。 明るい日差しが周囲の家屋の石壁を照らしている。 「ここ・・・どこだろ?」 まだ自分の知らぬステージがあったのかと思い、 そして反省する。 (そうだよな、まだまだ、だよね) 自分が全てを知っているなどと思うには、まだ早い。 そう考え直した、その矢先。 「あッ!!!お前・・・」 後ろから やはり聞き慣れぬ声。 ・・・いや、初めてではない気もする。 ロイが振り向いた先にいたのは 白き羽に、白き衣をまとった、茶髪の少年だった。 「・・・え?」 さすがに、 いまだ知らぬ者がいるとは、思えなかった。 「帰ってこないねぇ」 リンクが、まったく情のこもっていない声を上げる。 独楽が消え、 今度は羽根のほうをどうにか回せないか、 先ほどから試行錯誤を繰り返している。 (・・・道化師にでもなりそうだ) マルスもやることなく、ただそれを眺めている。 「・・・さすがに、遅いね」 『ここ』で心配する必要もないとわかっている。 だが、気にはなった。 「なにかあったかな?」 「またマスターにでも遊ばれてんじゃないの?」 「・・・」 沈黙するマルス。 羽根で遊び続けるリンク。 「・・・」 マルスの顔色の、ほんの少々の変化をみとって、 リンクは手を止め顔をあげた。 「・・・」 「・・・」 しばし見合う二人。 「・・・探し、行こうか?」 「・・・」 リンクの言葉に、 マルスは黙って立ち上がり、 背後に広がる虚空へと目を向けた。 「なんであんたがここにいるんだ?」 「え?・・・てか、ここ、どこ?」 「知らないで、いるわけ?」 小馬鹿にするような天使姿の少年の言葉に ロイは思わず反論しかける。 だが、ちょうどその時、 彼らの後方で何かが光った。 現れる、一つの小さな魔方陣。 その中より青い髪の青年が登場する。 短髪に、鋭い眼差し。 ところどころに裂け目の入ったマントや服からは 彼が幾多の戦場を駆けてきた者であるのがよくわかる。 その顔もまた、 見覚えがあるような気がした。 そして、さらにもう一つの光。 こちらは軽やかな風をまとって、 なんだか見覚えのあるようで、ロイの知るのとはまったく違う、 緑の衣の青年が現れる。 「アイク!リンク!」 少年が、二人の名を呼び、駆け寄った。 「見つかったのか?」 「ぜんぜん。そっちは?」 「こっちも同じく」 (アイク・・・リンク・・・それにピット?) うっすらと、記憶にあった。 ついこの間のような、ずっと前のような。 (・・・ってことは) 「ねぇ」 「!」 慌てて目をあげると、 いつのまにか3人の視線は、自分へと集まっていた。 「名前」 「へ?」 「ロイでよかったっけ?」 うまく言葉が出ず、 とりあえずうなずいて見せる。 「ロイ、なんで『こっち』にいるの?」 「『こっち』??」 何を聞いたらいいかもわからず返答に困っていると・・・ 『うわっととっっ!!!』 また別の所、なにやら騒がしい音がたつ。 4人がそちらを振り向けば・・・ 「リンク・・・重い」 「あははは、ごめーん」 「・・・・・・笑ってないで・・・どいて・・・」 こちらは、 当然見覚えのある、緑の帽子と青いマント。 リンクとマルスがどこぞからか転がり落ちたかのように 重なって倒れていた。 「先輩!リンク!」 「あ、ロイ!」 かけられた声に、リンクがぱっと顔をあげ、身を起こす。 「・・・よかった、なにもなさそうだね」 マルスも起き上がって、安堵の息をつく。 「いやぁ、でもマルス?」 「あぁ」 リンクは、 ロイ、そしてその他3名の顔を見渡した。 なんか増えた、そんな顔をしている少年、ピット。 見覚えがある気がする、と首をひねる青年、アイク。 なぜか真面目な顔つきでたたずむ、もう一人のリンク。 「これ、俺たちまで巻き込まれてるんじゃないか?」 泡のような、雲のような、 闇の色をしたもやが立ち込めている。 今はまだ密やかに。 目には触れても手に触れらるることはなく、 今か今かと、 その時を待っている。 「なんだ、用事があるわけじゃないんだ」 ピットがつまらなそうに言う。 「俺たちが何の用事あると思った?」 「いや、なんかまた面白いことないのかなってさ」 「面白いことねぇ・・・」 「あ、でも」 ロイが思い出して口をはさんだ。 「なにか、探していたんじゃないの?3人で」 「え?」 「さっき何か話してたから」 「・・・なんか、もういいかなって」 ピットの声には、まるで覇気がない。 「お前が一番騒いでいたはずだろう」 「だってぜんぜん見つからないんだもん」 「何を探しているんだ?」 リンクが問うと、 「プリム」 リンクが返した。 「プリム?」 「何それ?」 「そうか・・・そっちには、いないんだな」 「・・・俺たちも詳しくは知らされてない」 淡々と語るのはアイク。 「ただ、なにやら俺たちを脅かす存在であることは確かだとか」 「よくわからないのに、敵であると判断するのか?」 「・・・」 マルスの指摘、アイクは口をつぐむ。 「でも見るからに、『魔物』かなって」 「魔物ねぇ・・・」 『魔物は、倒さないと』 リンクとピットが口をそろえる。 「・・・だそうだ」 付け足すアイク。 「・・・単純」 「だけど正論」 マルスたちの呟いた感想、 それを聞いてか、聞かずか、 アイクが動く兆しを見せる。 「アイク?」 「もう少し、探してみる」 ピットにそれだけ言って、背を向けた。 「アイク、僕も連れて行ってくれないかな」 「マルス?」 「どうせ帰り方もわからない。だいじょうぶ、すぐ戻るよ」 「・・・」 軽く『だいじょぶ』だなんて言ってみせるマルス。 ほんの少しの憂い顔で、 その瞳をリンクはまっすぐ捕らえる。 見返して、マルスが微笑む。 「心配してくれるのかい?」 「しないけど」 「じゃ、いいよね」 それ以上、どちらも何も言わなかった。 「俺はいいとは言ってないんだが」 アイクがつぶやくが、 マルスは有無を言わせようともしない。 仕方なくアイクは無言で歩き出し、それにマルスもついて行く。 「ほんとに行っちゃった・・・」 「まぁ、だいじょぶだろ」 「・・・根拠はないよね?」 「アイクだっけ?彼が一緒なら問題ない・・・よな?」 「なんでボクに聞くの」 「君達のほうが『こっち』はよくわかってるだろ?」 「・・・あんた、センパイでしょ」 「え、誰の?」 ・・・と、 「あ!あれ!」 ロイが急に声をあげた。 一同見やった、ロイの目線の先。 そこには、何やら奇妙な黒いもやが立ち上っている。 そして ヒョコッと一匹、 黒と紫の体の奇妙な者が現れた。 「ピット、あれがプリム?」 「!そうだよ!」 もやが消える。 現れたそいつは、こちらを向くこともせず、 ロボットのような肢体を揺らして、彼らから離れる方へと歩き出す。 「あ!」 「待てっ!」 とっさに駆け出す、ピットとロイ。 やっと気づいて振り向くそのプリム、 追われていると知り、走り出す。 「今度こそ捕まえてやる!」 意気込むピット、勢いについていくロイ。 しかしプリムは逃げ続け・・・ ついに、ステージの端から飛び降りて消えてしまう。 だが 「逃がすか!」 ピットもそれを追って飛び降りる。 後に続く、ロイ。 こうしてまた二人減り、 喧騒は収まる。 「・・・ なんで、すぐ追いかけて行くかな、ロイも」 リンクがのんきに頭をかく。 今や空間に残るは、リンクとリンク、のみ。 「・・・」 リンクはリンクを見つめた。 片や、うっすら笑みを湛え。 片や、表情を硬くしたまま。 二人はお互いを見合った。 「傭兵団の団長、か」 「あんたは?」 「僕?」 「俺とはだいぶ身分が違うように見受けるが」 「・・・僕はアリティアの王子だ」 「王子・・・」 「あぁ」 「・・・」 「・・・」 「もしかして」 「なんだい?」 「俺はさっきからひどく礼を失しているか?」 「・・・あはは」 「?」 「いや、久々だな、と思って」 「・・・」 「気にしなくていいよ。もう慣れたし」 「・・・」 「それに」 「?」 「戦いが全てである『ここ』において、 礼儀なんて邪魔なだけ。 そうは思わないか?」 「・・・俺は、払うべき礼儀は払おうと思う」 「知りもしない国の、本物かもわからぬ王子に対して?」 「・・・身分とはそういうものなのだろう?」 「・・・・・・そうだね。 でも、『ここ』で、僕に対しては不要、だよ」 「・・・わかった」 「あーーー!またいなくなった!」 「意外に素早い・・・」 目標を見失い、 ひとまず立ち止まって上がった息を整える。 ふと気付く、その視線。 「・・・」 「なんだよ」 ロイが、意味ありげな目で ピットの顔、そして背中・・・白い羽を見つめている。 「その羽根・・・」 ロイの言葉に 多少、身構えてしまう。 聞かれることの想像がついた。 これだけ走りまわって、その間、一度も羽ばたかぬ、天使の翼。 不自然なのは自覚している。 誰だって疑問の一つや二つ持つものだろう。 だが何度問われても、答えるだるさは消えない。 今度はなんて答えよう? いくつか浮かべながら、次を待った。 「・・・さわってみてもいい?」 浮かんだ答えは泡のように消えた。 「いいなぁ、ただのブーメランじゃないんだ」 「大した風は起こせないけど」 ・・・なんでこういう話になるんだろう。 「なにかと幅が広がりそうだね」 「でも小細工なしの方が、純粋に威力としては上なんじゃないか?」 「そうだね。けど、こういうのは考えて使えば・・・」 「威力より、効果ってこと?」 「そのとおり」 いつのまにか、道具談義をしていた。 この人には、 もっと聞くべきことがあるはずなのに。 もっと、大事なことが、あるはずなのに。 「そっちのは?」 「え?これ?」 「俺のフックショットとは違うよね」 「クローショット」 「爪になってるんだ」 「へぇ・・・鉤になってる・・・ってことは けっこうどこでも刺せるのか」 「便利でいいよ」 「でも使うの難しそうだ」 「そんなことないさ」 次々に出てくる、様々な道具。 自分のと、似て異なる、だけど本質は同じ、 そんな道具の数々。 「あ、あのさ」 「ん?」 剣は? 思い切ってそう聞こうと思った。 ・・・のだが 「リンクッ!」 『!?』 唐突に響く声に 2人揃って、空を仰いだ。 高い空 そこから落ちてくる一つの影。 すぐ近くの地面へと手足を着け、顔を上げる。 「見間違いじゃなかったようだな」 『フォックス!!』 2人のリンクに名を呼ばれ、 フォックスは、尻尾を揺らして立ち上がった。 「・・・また変なところ出た・・・」 ロイが、辺りを見回して言う。 「ワリオの作った場所らしいよ」 「ワリオ?」 ピットが知らない?と聞かれ、 ロイは素直にうなずく。 「ワリオはマリオのライバルだって、聞いたけど」 「クッパじゃないの?」 「また別だって。 でもワリオ、今は金儲けで頭いっぱい」 「金・・・」 「ここもそんな『金儲け』のために作られたのさ」 今立っているこの場所の、どこに金品の概念があるのか。 ロイには理解ができない。 「さーて・・・」 と、ピットが 「ここではね、 示されたことをやらないといけないんだ」 「『示される』???」 ますますもって意味を理解できないロイ。 「やらないとどうなるの?」 「それはもちろん・・・ そうなってからのお楽しみ」 悪戯っぽく、だけど嘘とは思えぬ口調。 「来るよ」 奥に広がる、扉のような線画。 妙なブタのマークのついたそれが・・・ ・・・開いた。 「君は・・・」 「?」 「どうしてプリムを追っているんだい?」 「・・・『魔物だから』」 「賛同しているようには見えなかったよ」 「異論もない。それに、あいつらがうるさいからな」 「傭兵っていうのは、常に利益を求めて動くべきでは?」 「・・・『ここ』にどんな利益があるという?」 「というと?」 「ここに存在する利益なんて、技と知識、それだけだろう?」 「・・・確かに」 「だったら、何でも動いてみることが利益につながる。 ・・・違うか?」 「いや、そのとおりだね」 どんよりと淀んだ空の広がる町の中、 静かに会話をつづる、マルスとアイク。 そんな彼らの目の前。 「・・・出たね」 「あぁ」 一匹のプリムが、歩いてきた。 「久しぶり・・・というのはちょっと違うか」 「フォックス、顔、変わった?」 「あぁ・・・なんか、グラフィック変えたって」 「は?」 「・・・わからないよなぁ」 「じゃ、ファルコも?」 「あいつはまだ見てない」 「見てないって・・・どういうこと?」 「『こっち』は、まだいろいろと『準備中』なんだ」 「ふーん」 「んで、なんでお前がここに?」 「さぁ?」 「さぁって・・・相変わらず適当だな」 「来たくて来たわけじゃないんだ」 「・・・なんだ、遊ばれてるのか」 「遊ばれたロイに、巻き込まれただけ」 「同じだろ。・・・・・・ロイ?」 「・・・そろそろ、探しに行ったほうがいいかな?」 「ロイを?」 「あとマルスも」 「・・・あの2人もか。 あまりほっとかないほうがいいと思うぞ、俺は」 「だよね」 「どこに行ったんだ?」 「プリム?だっけ? なんかそれ追っかけてった」 「プリム・・・」 フォックスが言葉を切った。 「・・・さっき、見かけたな」 「え!どこで?」 彼の言葉に、 じっと2人の話すのを眺めていたもう1人のほうが身を乗り出す。 「ニューポークシティだ」 「・・・あそこか」 「まだいるかはわからないが」 「俺、行ってくる!」 言って、飛び出すリンク。 「元気でいいね」 「あいつの方がよっぽど勇者らしいよ」 「あ、ヒドーイ」 笑いながら抗議する。 「お前も行くんだろ?置いてかれるぞ」 「あぁ。 フォックス、またね」 「それはいつになるんだ?」 さぁね、と肩をすくめて見せるリンクを、 やれやれと、手を振って送り出した。 リンクはそのまま背を向け、 消えた緑の帽子を追いかけていく。 「あはははははははははっ!!!」 笑い転げるピット。 「やれって言ったじゃないかっ!!!」 顔を赤らめて、ロイが叫ぶ。 「だって・・・ホントに、マジ顔でアピールしてんだもん」 「ピットが思わせぶりなこと言うから!」 「先に教えたら、面白くないじゃないか」 ピットは話しながらも 涙すら出てきそうな顔でひたすら笑い続けている。 「それはまぁ、わかる・・・けど!」 「あ〜!オモシロ・・・っ!!」 「あ!プリム!!」 2人同時に、気付く。 『待てッ!!』 再び、揃って追い始める。 「あいつ・・・何をしているんだ」 「何かを待っているようにも見えるね」 こちらを向いたまま、動こうとしないプリム。 「・・・」 「・・・」 「え?俺か?」 「かもしれないよ」 そう言うマルスの顔に、緊張感などはまるでない。 「・・・」 そんなわけはない。 そう思いながらも、可能性の全てを否定できず、 黙りこくるアイク。 そんなところに 『!』 また一匹、プリムが降って来た。 そして 「とぉーーーーりゃぁッッ」 その後から、 威勢のよい掛け声とともに降って来る、ピット、そしてロイ。 ピットは神弓を振りかざしている。 ロイの方はまだ剣に手をかけていないようだ。 「あ、先輩!」 「ロイ、見つけたんだね」 「そうなんですけど、こいつ素早くて・・・ あれ?」 ロイがマルスたちの前にいる者に気付く。 「もう一匹?」 「お!ホントにいたよ」 さらにもう一組、 リンクが2人、現われた。 「フォックスの言ったの、確かだったね」 「でも・・・2匹いる?」 6人揃って、 2匹のプリムに注目する。 プリムたちは、お互いの顔を見合わせて・・・ 『!!』 「消えちゃった!?」 出てきた時のように 紫のもやが現われ、その中へと融けるように消えてしまった。 「また逃げられたーーーっ!」 「いや・・・まだだ」 プリムはいなくなっても、 もやは、まだ現われたままだった。 アイクにつられ、ピットも、緩めた気を締めなおす。 「・・・なんかヤな予感?」 ピットの言うとおり、 もやの中から 何かが、現われる。 「・・・これも『プリム』?」 「・・・・・・名前は忘れた」 「似たようなもんだと思うんだけど」 「・・・どこが?」 形は違えど、 明らかにさっきのプリムと同質の者で、 明らかに・・・ ・・・大きい。 そしてさらに明らかに、 今度はこちらに対する敵意を持っていた。 「・・・どうしよ?」 「お前だろ、一番騒いでいたのは」 「で、でもこんなでかいの出てくるなんて・・・」 「・・・まぁな」 「あ、アイク・・・」 後ろから、かけられた声に振り向くと 「・・・もっとヤバイの出た」 リンクが、引きつった顔で、指差している。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 3人の表情が固まる。 リンクが指したそれは、 真っ赤な体に、 ありえないくらい大きい口、そこにびっしりと並んだ白い牙。 頭にはちょこんとかわいいヒヨコ。 「究極キマイラ・・・」 「こんな時に出なくてもいいじゃん!?」 「・・・まぁ、ここがコイツの居場所だから」 「空気ぐらい読めってのッ!」 「またそーいう無茶なことを・・・」 話しているうちに 究極キマイラも獲物を見つけ、 こちらへと狙いを定めている。 「やるしかない」 「キマイラは避けながら」 「あのデカいのを」 「追い返す、と」 「こっちは3人もいるんだ、なんとかなるさ」 「あぁ」 ピット、アイク、リンクの表情が、変わった。 三者三様に、 それぞれの武器に手を掛ける。 「・・・」 「だ、大丈夫なのかな?」 彼らの後ろで、 ロイが、隣のリンクたちの顔をうかがう。 「平気でしょ」 「でもあんな・・・得体の知れない輩・・・」 「少なくとも、何も知らない僕らより、 ほんの少しとは言え知っている彼らのほうが頼りになると思うよ」 「・・・ そう・・・ですね」 「ロイッ!それに他2人ッ!」 ピットが、肩越しにロイ達へと叫ぶ。 「・・・『他』って」 「その赤いヤツ! そっちは相手にしようだなんて思っちゃダメだからな! ぜーーーったいにっ!ダメだからなッ!」 ロイがこくこくとうなずく。 対して『他2人』は 「ご忠告どうもありがとう」 「ありがたいんだけど・・・」 その赤いヤツの視線に気付いていた。 そいつは 見たことのない、こちら3人に興味を示してしまったようで。 「ならどうしろって?」 「彼があぁ言うんだから、よっぽどマズイ相手なんだろうね」 もはや、 いつ走り出してもおかしくない。 しかし、あれだけ念を押されて剣を抜くわけにもいかない。 「・・・ていうか」 「こっちのほうが見るからにヤバそうなんですけど」 「・・・見掛け倒しだとは、期待できないかな」 「どうしようか・・・」 「!!先輩・・・来ますよッ!」 不安と覚悟のこもったロイの言葉のとおり、 キマイラがついに走り出す。 どうしていいかもわからぬまま、 とにかく身構える、マルスとロイ。 だが1人、 リンクだけは違った。 『!?』 2人がふと振り向くと リンクは 2人のマントを軽くつまんでいる。 「え?」 「リンク?」 見れば、 リンク自身もまた、不思議そうな顔をしていた。 まるで、自分のしていることに疑問を持っているかのような。 (君がなんでそんな顔をしているんだ) 迫るキマイラ。 近づけば近づくほど、その口の大きさを実感する。 「・・・」 リンクは、動こうとしなかった。 視界が、一瞬にして黒く染まる なんだか覚えのある、感覚。 3人それぞれ、 真暗きところへと 落ちていく・・・。 「なぁ」 カンッ 硬い音。羽根がスイッと空を舞う。 「なに?」 カンッ 右手の羽子板で、飛んで来た羽根を打ち返すマルス。 「初夢、何見た?」 さらにリンクが打ち返す。 「初夢?」 落とさないように、慎重に見極めて、 マルスが打ち返す。 「こーいうことするのが、正月で」 少し遠くへ飛びすぎた羽根を のぞけりながら、捕らえる。 「正月に見るのが初夢なんだろ?」 「らしいね」 まだまだラリーは続きそうだ。 その2人の奥では ロイが、1人、独楽回しに挑んでいる。 「ロイはなんか見た?」 「え?」 やっとうまく回るようになった独楽から、 視線をリンクへと上げる。 「初夢」 「・・・変な夢なら」 「どんな?」 「・・・・・・・・・天使に馬鹿にされた」 「それっていいのか?」 「まぁ、どちらかといえば楽しかったのかも。 リンクは?」 「面白い夢見たよ。 なんか変な魔物、追いかける夢」 「それ、面白い?」 「なかなか。 んで、マルスは?」 「・・・赤くて大きくて怖くて赤い、ヒヨコの夢」 「赤くて・・・」 「大きくて・・・」 「怖くて・・・」 「ヒヨコ・・・」 思い出して、黙する。 羽根が、コロンと落ちた。 「あれは・・・」 「怖かったな・・・」 「できれば、見たくない」 『・・・』 3人の夢 やはり、同じもの。 「・・・ まぁ、記憶なんて所詮こんなものだよ」 「夢だろうが現実だろうが」 「変わらない?」 「そう。結局残るものは同じ」 「・・・赤いの?」 「・・・」 「・・・ほ、他にもいろいろありましたって!」 「・・・」 「・・・」 人も生き物、 危険回避の本能か、恐怖の記憶は何よりも勝る。 「・・・はね」 「落としたの、リンクだろ?」 「う・・・ばれてた?」 「当然。 次はお手つきだからね」 「もう落とさないよ」 ロイは転げた独楽へと目を戻し、 手にとって、だいぶ慣れてきた様子で紐を巻く。 リンクも 羽根を拾い、 高く高く空へと投げ上げた。