「お、やってるね」
「先輩、そんなのんきな物には見えませんけど」
「普通の乱闘じゃないか」
「いつもと全然違うじゃないですか。
わかってて言ってますよね?」
「普通だよ」
プププランドの大木、ウィスピーウッズの下、
ふらり散歩に来たマルスとロイ。
目の前では、ある2人の乱闘が繰り広げられている。
たしかに、
マルスの言うように、普通の一騎打ちである。
だが、
ロイの言うように、いつもとは違う乱闘でもあった。
「あ、マルスお兄さん達、こんにちは」
と、少し離れたところからネスが声をかけてきた。
隣にはカービィとピチューもいる。
「君たちも観戦中?」
「・・・というか」
と、ネスは少し言葉を濁す。
「ちょっと気になって見てたというか・・・」
「そうだよね、気になるよね」
ロイがうなずく。
「べつにいいじゃないか」
とマルス。
「やらせておけば、そのうち終わるさ。
二人ともいい大人・・・・・・・・子供じゃないんだし」
「だといいんですけど」
ロイは問題の二人を見やった。
乱闘をしているのは
リンク、そしてファルコ。
普通の乱闘とはちょっと違う乱闘。
違うのは、
2人の気迫。
・・・どちらかといえば、
・・・というか、明らかに
『けんか』
そんな感じだ。
「はっ!」
リンクが短く息を吐き、剣を振るう。
ファルコは軽く跳んでそれをかわす。
だがさらにリンクは返す刃で薙ぎ払う。
いったい何時からやっているのか知らないが、
どちらにもまだ、疲れの色など見えなかった。
リンクはとにかくファルコの動きを見ながら柔軟に剣技を繰り出し、
ファルコはその剣の隙を見つけながら、素早く的確に打撃を当てにいく。
まったく違う二人の戦い方。
だが、気持ちは同じようで、
どちらからも、
『絶対に勝つ』というのがありありと見える。
「が〜んばれリンク!」
「ピチュ!」
「が〜んばれファルコ!」
「ピチュ!」
「いい動きしてるね、2人とも」
「そうですね、いい勝負、ですね」
「僕が言ってるのは、カービィとピチューのこと」
「・・・え?」
「応援団のなんたるかをよくわかってるね」
「・・・僕にはよくわかりません」
「指揮官たるもの、後方支援のことも知るべきだよ」
「・・・勉強しておきます」
「ま、冗談は置いといて。ロイ」
「は、はい?」
「どっちが勝つと見る?」
「・・・やっぱり、リンクが不利に見えます」
「なぜ?」
「ファルコさんは、素早い動きが得意です。
リンクの隙の大きい動きに対応しやすいんじゃないかと」
「そのとおりだね。
でも、リンクだって、それくらいわかってるよ。
あの剣一本でずっとやってきたリンク、
対してファルコは、格闘は本職じゃない」
「先輩は、リンクが勝つと?」
「そう決め付ける気はないけどね。
あとは、2人の調子と運次第、かな」
「そういえば、ファルコさんってたしか、『操縦手』ですよね?
・・・なんだっけ、ネス?」
「『アーウィン』っていう、『飛行機』だよ。
『宇宙』を飛ぶ乗り物だって」
「・・・すごいね、よくわかんないけど」
リンクは立て続けに剣をふるい、
ファルコはひたすらかわし続ける。
変化しない状況。
先に折れたのは、リンク。
ほんのわずかな隙を見て、剣を大きく振りかぶった。
ファルコの『読み』のとおりに。
リンクの剣が、振り下ろされる前に
ファルコは大きく跳び、
リンクの頭上を超えて、背後をとった。
チャンスを逃さず、
ファルコが渾身の力をこめて蹴りを放つ。
数メートル後方へと飛ばされるリンク。
だが、地に触れるや否や、
器用に受身を取って、再び間合いを詰める。
「推測するに」
「推測?」
「ファルコはリンクのあぁいう順応力が気に入らないんだろうね」
「・・・マイペースですしね、基本的に」
「リンクはファルコのあぁいう頭のよさが、気に入らないんじゃないかな?」
「・・・先輩とは、ちょっと質の違う賢さですよね、ファルコさんのは」
「それはどう意味だい?僕のほうが賢いってことかな?」
「そーです、そーいうことです」
いつのまにか
二人は武器を持ち替え、お互い距離をとっていた。
ファルコの銃から一条の光が放たれる。
リンクは避けながらも、ブーメランを投げつけた。
だが動じることなく、ファルコはさらに銃撃を放つ。
「ところでさ、ネス」
「・・・?」
「いや、さっきから気になってたんだけど」
「なにが〜?」
「そこにいるのって・・・」
「あ、ミュウツーのこと?」
「・・・知ってはいたんだ」
「だって、起こしちゃったらかわいそう」
「かわいそう?」
「うん」
「ネスたちが来た時、もう寝てたの?」
「うん、寝てたみたい」
「・・・立ったまま?」
「ミュウツーはいつもそうだよ」
「・・・そう?」
「うん」
「この賑わいのなか寝ていられるとは、さすがだよね」
「そーですね」
ファルコの銃をかわしながら、
なんとか接近戦に持ち込めないかと試みるリンク。
飛び道具などでケリがつくと思っていないのはどちらも同じ。
だが、ファルコはひたすら待ち続ける。
あいつなら、そのうち絶対に隙を見せる、そうわかっていた。
リンクのほうも、ファルコが待っているものに気付いている。
ファルコはきっと、全部読んだ上で動いてくる。
どうにかその読みを崩せないかと、
リンクもブーメランを手に、機を計る。
「ん・・・?」
「何食べてるの?」
「そば」
「ピチュッ!」
「おいしそうだね」
「・・・持ってきたの?」
「ううん、そこにあったの」
「・・・・・・まさかあの二人・・・」
「・・・いやぁ、さすがにそれはないですって」
「リンクなら・・・」
「リンクはともかく、ファルコさんはないですよ、・・・たぶん」
「・・・ま、いいか」
「きにしなーい、きにしない」
「ピチュ〜」
「おいしければいいんだよね〜」
「・・・」
「・・・」
「そだね。・・・僕たちにもわけてくれない?」
と、その時、
ウィスピーウッズが枝を揺らした。
「あ、リンゴ〜v」
「ピピチュ〜!」
「はいはい、みんな一個ずつね」
「わーい!」
「ピ〜チュッ!」
「当たり外れあるけど」
「あ、そうでした。これは『ハズレ』か・・・」
「このリンゴ、かたくて食べれない〜」
「カービィのもハズレ、だね」
「言いながら先輩はちゃっかりアタリですか」
「当たっちゃたんだもん」
「ふーん、食べられないのは投げちゃえ」
ポイっ・・・と、カービィは
リンゴを後ろへほうった。
「・・・」
「・・・」
「あ」
見もせずに放ったそれは・・・
「・・・・・・ごめん、なさい?」
「・・・・・・」
運悪く、
寝ていたミュウツーを直撃してしまったようだ。
「・・・起きちゃった・・・かな?」
「・・・どうだろう?」
一同の見守る中、
ミュウツーが、わずかにその首を動かした。
こちらへと向けられたその目は、
完全に据わっている。
「ワタシノ・・・ネムリ、サマタゲルハダレ・・・ダ?」
低くつぶやかれる声が、
ただならぬ重みを持って、静かに響いた。
「なんか、様子がおかしいんじゃ・・・」
「たぶん、寝ぼけてるんじゃぁないかなぁ・・・」
「・・・えッ!?ミュウツーが?」
「誰だって寝ぼけることあるよ」
「いや、ネス、それはそうかもしれないけど・・・ってっ!!!」
ミュウツーが、かまえる。
「まずい、みんな伏せ・・・ッ!!!」
マルスが気付くより早く、
寝ぼけたミュウツーの『はかいこうせん』が、
彼らのいるあたり一帯を貫いた。
背後で聞こえた、大きな物音。
つい目をやり、見えた光景にリンクは思わず動きを止めた。
それを機とし、一気に間合いを詰めんと地を蹴るファルコ。
だが、ファルコも気付いた。
ロイが、ネスとカービィをかばいながらも、
大きく飛ばされ、宙に舞う。
ファルコはリンクの方へと向けたその勢いを殺すことなく、
空に大きく跳び上がった。
そして、
3人まとめて受け止める。
「ロイッ!他の連中はなすんじゃねぇぞ!」
「は、はい!」
ファルコがロイの襟元をつかむ。
・・・さすがに止めきることはできず、
そのまま一緒に、
場外に広がる空へと、落ちていく。
と、そこに、
「ファルコッ!」
リンクが崖っぷちから跳び、彼らへ片手を伸ばした。
ファルコはしっかりそれをつかむ。
リンクはもう片方の手で、崖めがけ、フックショットを打ち放った。
「はぁ・・・つかれた・・・」
4人を無事に引き上げ、
最後になんとか這い上がったリンクが、息をつく。
「おつかれさま」
マルスがそれを、軽く労う。
ピチューは彼がちゃんと守ったようで、
何事もなかったようにリンゴを食べている。
飛ばされた他の面々もなんとか無事なようだ。
…ミュウツーはというと、
気が済んだのか、むしろ起きてすらいなかったのか
とにかく、またもとのように眠りこけていた。
「ったく、なにやってんだお前らは」
「ご、ごめんなさい・・・邪魔、しちゃった」
「ジャマ?」
「闘いの・・・」
「あぁ、そんなこと、気にしなくていいよ」
「ネスが謝ることじゃないし、ね?」
「!ちゃ、ちゃんと『ごめんなさい』って言ったもん!
・・・聞いてくれなかっただけで」
「ま、何もなかったんだ、別にいいじゃん」
軽く笑うリンク。
・・・ロイには、なんだか不思議に感じられてしまう。
そんな視線に気付いたか、
2人とロイの目が合う。
「なんだよ?」
「どうかした?」
それぞれに聞かれ、
「なんで」
ロイが切り出した。
「あんな真剣に、けんか、してたんですか?」
一同の視線が2人に集まる。
「・・・あ?」
「けんか?・・・」
問われたリンクとファルコは、そろって首をひねった。
「なにか、『きっかけ』があったんじゃないのか?」
と、マルス。
「きっかけ…」
「なんかあったような…」
「…」
「…」
考え込んで、お互い顔を合わせ、
『忘れた』
同時に答えた。
Back