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「・・・」
唐突に響いた声に、
ロイは、ふと立ち止まった。
空は晴れて、ジャングルを流れる急流が轟々と良い音を立てている。
そんな中に響いた、声。
ロイはあたりを見回した。だが、誰の人影もない。
「?」
確かに聞こえたと思ったのだが。
しかし、
気のせいだと思うための要素はいくらでもあった。
ロイはもう一度、
近くに人がいないのを確認し、他の場所へ行こうとした。
〔・・・・・・〕
「!!」
ハッとして、
とっさに後ろを振り向く。
まただ。
確かに聞こえた、自分の名を呼ぶ声。
しかし姿はどこにもない。
「・・・」
そういえば、
こんなことは初めてではないはずだ。
落ち着いて、聞こえた声を思い返す。
・・・すぐに思いつく『テレパシー』という言葉。
だが、ネスやミュウツーではない。
あの声は・・・
〔やっと気付いたね、ロイ〕
姿を現さずに、自分を視界に収め、語りかけることが出来る者。
(・・・マスター)
あの人だな、と理解した。
〔何回目で気付くかなと思ったけど、意外に早かったね〕
なんとなく右手を耳に当ててみた。
その方が、よく聞き取れるような気がして。
この仕草が結局は形だけのことであるのはわかっているのだけれど。
〔ところで〕
マスターの言葉は続く。
〔6月だよ。ジューンブライドの季節だ〕
は?
いったいなんの話だろう。
『ここ』に季節など、あってないような物だろうに。
そもそも未だ、『ここ』に時間が流れているのかすら疑問である。
〔というわけで、ロイ、『あっち』を覗いてみたいよね〕
どんなわけだかよくわからない。
どこを見て来いとこの人は言うのか。
『じゅーんぶらいど』とやらに関係があるのだろうか。
っていうかちょっと待って、
また僕、貴方の遊びに付き合わせられるんですか。
いや遊びじゃなくて、あくまでも鍛錬なんですよね。ですよね?
ねぇ、どうなんですか、マスターハンド。
〔いってらっしゃい〕
こちらの言い分などまったく通す余裕もなく、
ロイは暗闇に放り込まれた。
突然、光が視界に現われる。
封じられていた呼吸が一気に開放されたような感覚に襲われ、
ロイは息を吐き出し、目を見開いた。
目の前に広がる、空。
透き通るような青の広い空にところどころ真っ白な雲が浮んでいる。
(・・・)
ロイは、何故か上がっている呼吸を整えつつ、
あたりを見回した。
足元にはしっかりとした石畳が広がり、側には柱や木が佇んでいる。
だが、
見える景色から察するに、
今立っている地は確かに空に浮いていた。
(見覚え・・・ないな)
ハイラルの神殿かとも思ったが、
あそことは、なんというか、空間の色が違うように感じた。
ひとまず腰に剣を提げたまま、
ロイは数歩、前へと足を進める。
・・・と、
激しい風斬音と共に空を1つの影が横切った。
「!あれは・・・」
見覚えのある青と白の機体。
それはあっというまに空の彼方へと消え、
その軌跡から代わりにもう1つ小さな影が現われ、
次の瞬間には、彼が目の前に着地を果たす。
「ファルコさん!」
ロイが名を呼ぶと、
ファルコは屈めた足を伸ばしてスッと立ち上がり、
「久しぶりだな」
手で髪をかき上げるような仕草をしながら、ロイを見据えた。
「久しぶり?ですか?」
「あぁ・・・お前にとっちゃそうでもねぇのか」
「え?それ、どういう・・・?」
理解に苦しんでいる様子のロイを見て、
「・・・『投げ込んだ』ってのはホントらしいな」
ファルコは少し、眉をしかめる。
「投げ・・・何を?」
「マスターの野郎が言ってたぜ。お前を投げ込んだって」
「・・・」
やっぱり、
僕はあの人に遊ばれているんだろうか?
そんな思いが頭を過ぎる。
「ロイ」
と、ファルコに改めて名を呼ばれ、
ロイはファルコと目を合わせた。
ファルコの顔は、
いつもとちょっと違っていて、
こういうと、普段は違うのかと問われてしまうのだが、
なんだかとても真面目な顔をしているように思った。
「悪いが、説明してるヒマがねぇんだ」
言って、ファルコが空を見上げる。
つられてロイも見上げると、
彼らの頭上、またも1機、空を切って現われる影。
「・・・チッ」
小さくファルコが舌打ちをするのが聞こえた。
続いて軽い着地音、そして鎖の擦れる音。
ロイは、後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは、
フォックスに似た、灰色の毛皮の獣だった。
そう大柄ではない風貌だが、
堂々と腕を組み、あごを出したその立ち姿からは
只者ならぬ、また、人を寄せ付けぬ威厳を感じる。
「おい」
獣が、低い声でファルコに向かって言葉を放つ。
「こいつがそうなのか?」
「耳の早ぇヤロウだ。性質がわりぃ」
「あぁん?なんか言ったかトリ」
「・・・」
ファルコは口をつぐむ。
・・・やはり、
いつもと違うような気がする。
いつもなら、絶対に言い返すし、たぶん、手が出る。
「わかってるな」
「あぁ・・・」
そんなロイの思いを置いて、2人は話を続ける。
「そいつは俺の獲物だ」
「俺には手出しすんなって言うんだろ?」
「ほぅ、珍しく物わかりが良いじゃねぇか」
「勘違いするな、てめぇに譲るわけじゃねぇ」
謙遜でも照れでもなく、
心底嫌そうにファルコは相手から視線を反らした。
「ロイ」
と、こちらに目を戻す。
「はい?」
「1つだけ教えといてやる」
「・・・なん、ですか??」
「・・・」
ファルコが言葉を発するのと、
ほぼ同時に、
獣が、動いた。
「ッ!!!」
とっさに半歩下がるロイ。そこを、相手の鋭い爪が薙ぐ。
下がっていなければ確実に受けていただろう。
(・・・な、なんでッ!?)
体は反射的に動いたものの、
ロイは状況を全く理解することができない。
だが、
相手はそんなことお構いなしのようだ。
初撃に続いて、素早く、鋭い攻撃を繰り出してくる。
ロイはそれらを避けるので精一杯で、考える余地をなくした。
(僕にどうしろって!?)
ちらとファルコの姿を探すも見つからず、
返って隙を作ることとなってしまう。
機を逃さず、ロイを襲う攻撃。
辛うじてこれもかわすが、大きく体勢は崩れ、
次は無理だと自分でわかった。
再び迫る爪。
(・・・ダメだっ)
覚悟した、その時
『!』
2人のいる場所を、風が薙いだ。
揃って身を反らす2人。
(今のは・・・ブーメラン?)
思わぬ邪魔が入り、獣の動きが一瞬止まった。
そして、
キンッ
金属同士のぶつかる音が甲高く響いた。
ロイの目の前で交差する、銃と剣。
現われたのは、
おそらく、ブーメランの持ち主であろう、緑色の服の小さな少年。
彼が素早く間合いに入り、振り下ろした剣を、獣はとっさに抜いた銃で受け止めたようだ。
2人は武器を退くことなく、互いに見合う。
「・・・てめぇに邪魔されるとはな」
「ごめんなさい、ウルフさん。でもボクもゆずれないんだ」
短い会話を交わし、
合わせた武器はそのままで、2人はニッと笑みを浮かべた。
・・・
相変わらず、わけは分からないが、
これを好機と取り、
ロイは、後ろへと退こうとした。
のだが・・・
「!」
「俺から逃げようなんざ100年早ぇ」
獣に銃を向けられ、ロイは踏み留まらざるを得なかった。
「ロイさんですよね」
新たに現われた少年が、
剣は抜いたまま、ロイに話しかけてくる。
「はじめまして。ボクの名前は知っていると聞きました」
大きな瞳でそういう彼は、
知らない者ではあったけれど、
確かに、すぐに名前の浮ぶ格好をしていた。
「ホントはちゃんと名前言って、もっとゆっくりお話したいんですけど・・・
時間がないんです。ゴメンナサイ」
少年は言って、
再び剣を構えた。
・・・ロイに向かって。
(・・・え)
「お手合わせ、オネガイしますッ!」
言うや否や、
少年はロイに向かって飛び出す。
今度は自分に振り下ろされる、小さなマスターソード。
(だからなんで!!?)
何が何やらわからないまま、ロイは大きく後ろに跳んだ。
しかし、少年は合わせて前へと詰め、追撃をかける。
ロイは彼の剣を避けながら、とにかく後ろへ後ろへと下がり続け・・・
遂に
片足が崖淵にかかる。
もう後はない。
少年がとどめとばかりに大きく剣を振った。
(もう、どうにでもなれッ!)
意を決し、
ロイは、思いっきり地を蹴った。
「あっ!」
「詰めが甘ぇんだよ」
少年のちいさな悲鳴と、獣の小馬鹿にしたような呟きを耳にしながら
ロイは地面の下に広がる大きな空へと落ちていった。
↑上へモドル
また1台、F-ZEROマシンが真横を通り過ぎる。
それの残す衝撃波も気にすることなく、
ロイは走り続けた。
わけは未だにわからないが、とにかく走って逃げ続けた。
今いる場所も、よくはわからない。
ただ、
舗装された路面、そこを頻繁に高速で通リ抜ける車、そしてコースの遥か下に広がる大都市から、
なんとなくではあるが
キャプテン・ファルコンのいる、ミュートシティに似てるなと感じた。
先程から進んでいるこの場所は、
きっと、F-ZEROレースのコース上なのだろう。
ロイは少し左へと跳ぶ。
そこをまた、今度は2台、F-ZEROマシンが走り去った。
(いつまでこうしてるんだろ)
考えるのも疲れてきた。
だが、走るのを止めるわけにはいかない。
「・・・ッ!」
ロイは殺気を感じ、さらに左へと跳ぶ。
右腕をかする、エネルギーの塊。
背後に目をやると、
銃を構えた獣が、だいぶ近くにまで迫ってきていた。
灰色の中に真白な毛をなびかせ、
付かず離れず、彼はロイについてきた。
(・・・しつこい・・・っ)
見かけからして、
きっとフォックスの知り合いに違いない。
しかし先程のファルコの様子からして、仲間ではないのだろう。
彼らには仕事敵がいると聞いた。ウルフェンに乗っているという。
きっと追いかけてくる彼がそうだ。
銃撃も、本質はフォックスやファルコの放つ物に似ているが、
彼のは力がもっと凝縮されているようだ。
撃ってくるタイミングから察するに連射は出来ないようだが。
(振り切れそうにない・・・けど)
ここまで来て、逃げるのを諦めようとは思えなかった。
なのだが
(・・・上ッ!?)
どこから出てきたのか。ロイの上空に現われる、少年。
こちらは手にバクダンを携えている。
「ヤァッ!」
少年は空中からロイめがけてその手の物を投げ放った。
そして自身も落下しながら、素早く剣を抜く。
迫るバクダン、そして少年。
だが
ロイは、バクダンを避けようとはしなかった。
足を止めることなく、上手いことそれをキャッチし、
そして、軽く、頭上へと投げ返す。
「!」
思いのほか容易く返され、少年はロイから離れざるをえなかった。
数秒後に響く爆発音。
・・・
やはり
彼の名は、リンクなんだろう。
今まで見た同じ名を持つ者達とはだいぶ違うけれど、
その服や持ち物、そして剣は、
彼がハイラルの勇者であることを示していた。
(でも、なんであの子にまで追いかけられてるんだろう??)
いくら考えても、答えはでない。
と、
そこへ、
「!?」
いきなり何かが落ちてくる。
白い丸い物のようだったが、
それは地に着くや否や、真っ白な煙をあたりにばらまく。
「な・・・今度はなに!?」
驚いている間に、
ロイの視界は煙に覆われ、
そして、
何かが右腕に絡みついた。
声を上げる暇もなく、
その絡みついた何かは、ロイの体を宙に浮かせた。
「え、な・・・」
自身の体を捕らえた何か、その力によって
ロイはすぐに広がる煙から抜け出し、
みるみるうちに
路面も、そこを走り抜けるF-ZEROマシンも、足元から遠のいてゆく。
そうして引っぱり上げられ・・・
ロイは右腕だけを絡め取られた状態のまま、
コースの横にそびえるターミナルの天辺まで来ていた。
そこには
赤い上着と帽子を身に着けた少年がいた。
年のころは自分とほぼ同じか、少し下に見える。
彼の隣には、緑色の体にピンクの蕾を背負った生き物がいた。
その背中からは緑色の触手が伸びており、
ロイの右腕に繋がっている。
「うん、上出来だ、フシギソウ」
言う少年の隣で、
フシギソウと呼ばれたポケモンも嬉しそうに目を細めた。
「・・・もしかして」
ロイが言葉を発すると
2人の視線が戻ってきて、ロイと目が合った。
彼らの、敵意も好意も見当たらない視線、
多少たじろぎつつ、ロイは続けた。
「遂に僕、捕まったってこと?」
「・・・
・・・
あ、フシギソウ、下ろしていいよ」
言われて、
フシギソウは静かにロイを地面へ解放してくれる。
「ロイさん、だよね」
「うん」
「手荒になっちゃってごめんなさい。
でも、これでウルフさんも撒けたはず」
少年は、下に見えるコース上へと目をやった。
ロイもそれにならう。
先ほど広がった煙幕がようやく晴れてきたようで、
薄れた煙の中、追手の2人は獲物を探しているようだった。
近くにいないと判断したか、
2人は、別々に、コース外へと飛び出し姿を消した。
それを見てホッと息をつく少年
「ウルフって・・・銃持ってた人?」
ロイの問いに、少年がうなずく。
「あの人、一度狙うとなるとすっごくしつこいんだよね」
言いながら頭をかく少年。
と、
ロイのもとに、再びフシギソウの触手が伸びてきた。
何かとフシギソウを見やると、
そのポケモンが、少し心配そうな目でこちらの顔を見上げている。
伸ばした触手はロイの右腕を静かに指す。
(・・・心配、してくれてるのかな)
案の定、
ロイが右手を軽く振って見せれば、フシギソウはにっこり笑顔を見せた。
つられてロイも笑い、
少年も、2人の様子に笑みを浮かべた。
「ねぇ」
ロイが少し顔つきを戻し、少年に問いかける。
「なんで僕があの2人に追いかけられてるの?」
「・・・
2人だけじゃないよ」
「え?」
「やっぱり、・・・何にも聞いてないんだ」
声を落とし、
少年が話し始める。
「マスターがね、こんなこと言ったんだ。
炎の獅子と呼ばれる剣士を招いたよ。
君達のセンパイにあたる、良い参戦者だ。
もし、彼を負かすことが出来たなら・・・
その者にはご褒美をあげよう。なんでもいいよ。
制限時間は僕のきまぐれでまた彼を帰すまで。
がんばってね
・・・だって」
やっぱり・・・遊ばれてるな、僕。
驚きも怒りも何もなく、ただ諦めだけが頭を満たす。
「聞いた話では、ロイさんを知らない人にだけこの話を流したみたい」
「じゃあ、僕と面識のない参戦者全員が追っかけてくるってこと?」
「まぁそう・・・かなぁ?」
やや中途半端な肯定ではあったが、
ロイはその言葉に大きなため息をついた。
「・・・褒美なんて本当にあるのかな、そんなもん」
「やっぱり、ロイさんもそう思うでしょ?
あの人に何かもらえるなんて・・・
皆も、信じてないよ」
「じゃぁ、何のため・・・」
「・・・たぶん、
皆、あなたと戦ってみたいだけ、じゃないかな」
深刻な顔で、黙するロイ。
少年はロイの思いに気付いたか、気付かずか、
話を続ける。
「ウルフさんなんて特にそんな感じするもん」
「・・・」
そうだった。
「リンクは、妹にあげたい物があるからその材料もらうんだって言ってた。
かわいいよね」
『ここ』は、
そういうところだった。
「ロイさん?」
剣を取るのに理由はいらない。
ただ、純粋な力のみを、思う存分に試すべき。
恐れる必要などない。
「・・・君は?」
「え?」
「君もやっぱり、僕と戦ってみたいと思うんじゃないか?」
急に問われ、
「・・・思わないって言ったら、嘘になるけど・・・」
少年は少し悩むも、
しっかりとした、真面目な眼差しでロイを見詰め、
「・・・でも」
答えた。
「ぼくはそれよりも、
こうやって話をしてみたかった」
そう言う目は、闘志などとはかけ離れ、ただ、純粋な好奇心に満ちていて。
・・・彼は少し、マルスに似ている、そんな気もした。
「本当はもっと話を聞きたいけれど・・・
・・・また1人、来たみたい」
言われ、ロイも気付いた。
遥か下の下、F-ZEROのコース上、そのど真ん中に
・・・ポケモン、だろう。
青い体に黒い手足の、犬に似た者が1人、立っていた。
彼がいるのはかなり遠い所だが、
そこから放たれる鋭い視線は確かにこちらを捉えていた。
(僕が下りてくるのを待ってる)
「どうするの?ロイさん」
「僕は、
マスターが戦えというならば、戦うだけ、だ」
ロイは下に佇む未知の相手に睨みをきかせた。
先程までとはうってかわって、
彼の顔には決意と闘争心が混ざり合い、
その瞳の色は闘いへと赴く覚悟に染まっている。
「ねぇ」
「?」
「今度また会ったら、ポケモンの話聞かせてくれない?」
「興味持った?」
「うん。それに・・・」
と、フシギソウの赤い瞳を見やる。
「僕もこの子たちの力を見てみたくなった」
今回はちょっと無理そうだけど。
最後にそう軽く付け加えると、
少年はにっこり笑って、腰に手を掛け振り上げた。
ポンッポンッと2つ分の音と光、
そして
「ガゥ・・・」
「ゼニッ!」
現れる、2匹のポケモン。
「ゼニガメとリザードン」
ロイは小さなゼニガメと大きなリザードン、それぞれと顔を合わす。
2匹とも、彼と目が合うと、会釈のような仕草で挨拶をしてくれた。
「あなたが望むなら、僕も彼らも、喜んで相手になるよ」
「うん。楽しみにしとくね」
言って、
ロイは振り返り、
下で自分を待っているポケモンを見据える。
そして
ロイは、剣を抜き放った。
「ロイさん」
「?」
何?と視線を投げると
少年はリザードンとうなずきあい・・・
↑上へモドル
耳元で風が唸り声をあげている。
空気が勢いよく、まるで流れる斬撃のように自分の体を撫でていく。
(ベルンの竜騎士ってこんな感じなのかな?)
ロイはそんな風に思いながらも、気を抜くことはできずにいた。
空を滑空するリザードンの背中。
その上は、騎竜と違って鞍も手綱もない。
少しでも油断すればすぐに振り落とされると容易に想像がつく。
ただリザードンは、できるだけ乗りやすい姿勢を保ってくれていて、
そのおかげで、なんとか剣を抜いたままその背に捕まっていることができた。
高ぶる鼓動を抑え、ロイは神経を研ぎ澄ます。
ヴォンッ
背後から、またも波動弾が放たれる。
ロイは振り向かずに身を屈めた。
頭上をかすめ、通り過ぎる波動。
だが同時に
放ったルカリオ自身も、こちらへ向かって路面を蹴り、空へと飛び出す。
拳には青く光る波動が宿されているのが見える。
「リザードン、とにかくまっすぐ!」
そう言い放って、
ロイはリザードンの背を蹴り、空へと飛び出した。
そして、ルカリオと空中で正面から対峙する。
ルカリオが拳を振り上げる。
拳の波動はみるみる大きくなっていく。
だがロイは動かない。
縮まる、2人の間合い。
ルカリオが、溜めた力を解き放った。
「今だ!」
と、
ロイは彼の攻撃が自身に触れるか触れぬかのところで
剣でそれを受け流し、
「はぁぁッ」
その勢いで、ルカリオを弾き飛ばす。
ロイの剣からは炎が放たれ、空を舞った。
「く・・・」
小さく声をあげるルカリオ。
それを背後に、ロイは路面に足をつける。
F-ZEROマシンが来る様子はない。
立ち止まることなく、ロイは路面を横切るように走り出した。
ヴォンッ
またも波動弾がロイを追ってくる。
「あぁっ、しつこいッ!」
ロイはやむなく足を止め、振り返り、
そして、
飛んできた波動弾を、剣で弾き返す。
弾かれた波動は、正確にもと来た軌道を進む。
ロイは再び走り出し、
コースの端にたどり着くと、下をチラッとだけ確認して、
すぐに飛び下りた。
そこにちょうど現われるリザードン。
ロイは計算どおり、その背に乗っかる。
リザードンもそれを確認し、
大きく翼を羽ばたかせ、速度を上げた。
ルカリオが追って来る様子は、ない。
(どこか・・・)
ロイはこのステージを出るタイミングを計る。
だが
ポンッポンッ
何かが破裂するような軽い音。とっさにリザードンが避ける。
「・・・ピーナッツ??」
その横を過ぎた物を見て、ロイは思わず呟いてしまう。
前に目を戻すと、
その出所が、そこにはいた。
赤い帽子の小柄なサル。
2つの小さなタルを背に背負っていて、どうやらそれで空を飛んでいるようだ。
手には銃のような形の、木でできた何かを構えており、
おそらくこれでピーナッツを放って来たのだろう。
大きくてキョロッとした目には、不敵な笑みを浮かべている。
「悪いけど、おいらも負けらんないんだよね!」
軽い口ぶりで言って、銃を構え、
今度は4つ、一気に放ってきた。
リザードンが進路を変えようとする。
「待った」
が、ロイはそれを拒む。
「避けなくていい。まっすぐ飛んで」
リザードンは訝りながらも、向きを変えるのを止めてくれた。
ロイは右手の剣を構え、
そして、
すれ違いざまに、一振り。
4つのピーナッツは8つに別れ、
少しだけ香ばしい香りを残し、あらぬ方へと飛んでいく。
ロイはすぐに剣を構えなおす。
まっすぐに突き進むリザードン、目の前に迫るサル。
「はッ!」
彼が避ける間を与えず、
ロイは剣を振り上げ、その背のタルを1つ、はたき落とす。
ボンッ!
爆発音が響く。
サルは弾き飛ばされ、
飛ぶ術を失ったため、ただ落ちて行くのみ。
彼の頭を離れロイの上に飛んでくる、赤い帽子。
ロイはそれをとっさに掴み、
そして後ろを振り向いて、サルのほうへと放った。
「!」
落ちながらも彼はそれをしかと受け取る。
「・・・サンキュー!」
そう言って笑い、さらに落ちていく。
ロイも笑みを返して、
「よし!」
ひとまずあたりに敵がいなくなったのを確認すると、
「ありがとう!リザードン!」
リザードンの背から飛び下りた。
ロイの礼に、リザードンも咆哮で返す。
落ちて、落ちて・・・
ロイは次の場所へと移る。
その顔から、
不安や迷いは完全に消えていた。
↑上へモドル
「あれ、ここは・・・ヨッシーのとこ?」
なんだか、見覚えのある風景。
知らぬものばかりと遭遇していたせいか、逆に違和感を覚える。
「・・・あ、でもちょっと違うか」
かわいらしい桃色の地面、絵に描いたような草花、
奥に見える不思議な形の山、さらに広がる空色、白い雲。
それらは自分の知る『ヨッシーアイランド』を彷彿とさせながらも、
また違った場所であると顕示していた。
ロイは、
風景を楽しむのもほどほどに、とりあえず辺りを見回した。
「だれも、いなさそ・・・」
気を抜きかけた、
その時
「見つけたぞい!」
「!」
声を聞くと同時に、
ロイは振り返りながら大きく1歩、後ろへと退く。
そこへ
ズンッと、また1人、知らぬ顔が降って来る。
「ハッハッハッ、お前じゃな、噂のは!」
突然現われた、
赤いローブと帽子、それにカラフルな腹巻をつけた、
鳥のような嘴を持った大きな誰かは、
尊大な態度で話しかけてくる。
「貴方は・・・?」
「ワシに見つかったからには」
と、ロイの話など聞く様子もなく、
「覚悟するぞぃッ!!」
どこから取り出したか、
右手に持った、自分の体ほどもある大きな木槌を
ロイに向かっていきなり振り下ろす。
「うっわ!」
驚きながらも、
ロイはその大振りな一撃を軽くかわす。
木槌が地面を叩き、ドシンという音があたりに響いた。
(・・・これは当たりたくないな)
音からして見掛け倒しとは思えなく、
剣で受け流せるようなものではなさそうだ。
そう瞬時に判断する。
だがその持ち主は、そんな重みを物ともせず、
次々と木槌による打撃を繰り出してくる。
(でも・・・)
反撃を考えずに身をかわし続けながら、
相手の単純な思考までも読み取って、
苦もなく攻撃を避けるロイ。
「なぁーーに笑ってるぞぃッ!」
「すいません。あ、お名前伺ってもよろしいですか?」
「ワシか?プププランドの王、デデデ大王であるぞぃ!」
「プププランド・・・」
どうやら、カービィの関係者であるようだ。
語りながらも途絶えることのない木槌による攻撃、
避けながら、ロイはそうと知る。
そういえば、
カービィからプププランドの事を聞いた記憶があまりない。
王がいるとも知らなかった。
一見、あの場所はとても平和で、幸せにあふれた場所に見える。
カービィは、
いったいあそこで、何を守るために戦っているのだろうか。
「スキありぃ!!!」
と、
まるで覆いかぶさるかのような勢いで体当たりを仕掛けてくる大王。
「おっ・・・と」
いきなりの事に多少驚きながらも、
ロイは横に身をかわし、
逆に好機と、相手の後ろをとった。
「失礼ッ!」
大王に一言、断りを入れ、
ロイは一気に攻撃に転じる。
始めの一閃で、隙だらけの相手を前方へと弾き飛ばす。
「ぬぉ!?」
素直に飛ばされるも、
デデデはなんとか体勢を立て直し、再びロイに向かって木槌を構えようとする。
が、
ロイは
すでにその目の前まで間合いを詰めていた。
「!!」
繰り出される、素早い斬撃、
2つ、3つ、と、それに合わせてデデデが後ずさりする。
さらに下がって・・・
「・・・お?」
気付けば足下は空の上。
そこにさらにとどめの一撃を加えられ、
叫ぶ言葉もなく、
舞い散る炎と共に、デデデは空中へと放られる。
自身から離れ、そして落ちてゆくのを見、
ロイは静かに息をついた。
剣先も落とし、肩の力を抜く。
大王サマは復帰が苦手なんじゃないか、そう勝手に考えていたのだが・・・
「!」
次の一瞬、
見えた光景に目を見開く。
デデデ大王が、空を飛んでいた。
カービィの浮遊とまったく同じ方法で。
カービィの倍くらいある大きな体を膨らまして。
「・・・すごーい」
「まだまだぞぃ!!」
デデデの意気に、ロイも少し下がって剣を構えなおす。
再び地上にて、相対する・・・
↑上へモドル
かと、思ったのだが
デデデの上に、
何かが落ちてきた。
「うぉっ!!?」
「おっと、Sorry!大王サマ」
それに踏まれ、
デデデはよくわからない悲鳴を上げながら空を落ちていく。
代わりに、
大王を踏み台として地へと下り立つ、誰か。
つんつんと逆立った真っ青な毛と、獣特有の耳、
細い手足に真っ赤な靴と真っ白い手袋が映える。
「よぅ!」
そんな彼は、軽い口調で話しかけてくる。
「あんただろ?ウワサの剣士って」
「たぶんね」
ロイも、軽く答えた。
相手の緑色の目は、とても楽しそうに見える。
「俺はソニックっていうんだ。よろしくな」
「君も、僕と戦いたいと?」
「Of corse!!強いセンパイに会えるってのに、ただ見てるだけなんてもったいない!」
「・・・
否定はしないよ」
それだけ言って、ロイは剣を構えた。
「・・・話の早いセンパイで、ありがたいね」
ハリネズミ・・・ソニックも、待ってましたとばかりに拳を構える。
・・・
自分でも珍しいなと思った。
なんだか、
剣を振るのが楽しくて仕方がなくて、
今なら誰にも絶対負けないという気がして。
「僕は、負けない」
自然と、言葉が溢れた。
それがソニックまで届いたかは知りようもない。
辺りはいつの間にか夕焼け色に染まっていた。
空をパタパタとヘイホー達が彷徨っているが、こちらに干渉してこようとはしない。
ロイは、静かに呼吸し続ける。
どちらが先に動くか・・・。
と、
ソニックが、わずかに表情を変えた。
同時に
ロイはふと剣をソニックから反らし・・・
自身の身を屈めながら
その場で、大きく一振りする。
風を切る音、
金属の触れ合う音、
そして
響く、爆発音。
「・・・
俺、アンタのそういうところ嫌いだよ」
ソニックが首を振りながら言う。
ロイにではない。
その、奥。
ロイは少し体を開いて後ろを見やった。
いるのは、1人の男。
体にぴったりついた暗い色の衣服を纏った、自分とは歳の離れていそうな男で、
頭に巻いた深緑のバンダナをたなびかせ、
また、
その右手にはなぜか、箱を持っている。
ちょうど人が1人、入るか入らないかといった大きさの、箱。
「君に嫌われようがなんだろうが、これが俺のやり方だ」
男は言いながら、箱から手を放した。
高いところからロイへと視線が注がれる。
すぐにわかった。
この人もまた、数多の戦場を潜り抜けている人であると。
(戦場?・・・違う)
死地。
そんな言葉を彼の目は連想させた。
何物にも揺らぐことのない光に、気圧されそうになる。
だが、
負けるわけにはいかない。
ロイはその目に応えるように、相手を睨み返した。
すると、
男は表情を緩め、フッと笑った。
「確か・・・」
先程のソニックに対する物よりずっと柔らかに話し出す。
「ロイ君、といったか?」
「あ、はい・・・」
「思ったより若い・・・いや、関係のないことだな。
俺はスネークだ。
手加減無用と聞いているが?」
「もちろん」
一度張り詰めた神経が、気付けば少し緩んでいた。
肩に入れすぎた力を抜いて剣を握りなおす。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ロイはスネークを見て、そしてソニックを見た。
ソニックの方も、始まるのを待っている様子だ。
彼らの様子を確かめ、ロイは一度目を閉じ、開いた。
3人の間の空気が僅かに変わる。
一呼吸の間を置き、
↑上へモドル
同時に動き出す。
ロイは特に考えもせず、その場から1歩後ろへ下がったのだが、
そこを何かが通り過ぎる。
それがソニックだと気づいた時には、
ソニックはすでに、スネークの懐へと入っていた。
(早ッ!)
そんなことを思っている間に
ソニックはスネークに数回蹴りを放ち、スネークはそれを腕で守った。
そして次の瞬間には
ソニックはロイの横まで戻って来る。
「足元には気をつけろよ!」
「え?」
「俺まで巻き添え食うのはごめんだぜ?」
言うだけ言って、
ソニックは高く跳びあがり、空中からスネークへと攻撃を仕掛ける。
だがスネークが黙って見ているわけもなく、
何か、手のひらに収まる小さなものを取り出し、
そのピンを抜き、
ソニックが地に着く前に、彼に向かって放った。
とっさにそれを手で払うソニック。
払われた物はロイの方へと飛んでくる。
一体何かもわからないが、ロイもソニックに倣い、剣で後ろへと払った。
後方で
それは地に落ち、ボンッという音と共に破裂する。
「・・・あれ」
頬に当たる冷たい物に、思わず天を仰いだ。
空と地の両方が白く染まり、ステージ全体に雪が振っているとわかった。
(・・・そうか、季節が変わったんだ)
ソニックとスネークは打撃の応酬を続けている。
驚いている場合ではない。
ロイは気を取り直し、改めてあたりを見回してみる。
・・・すぐに、地面の1、2ヵ所に何かが設置されているのがわかった。
(これのことだな)
ソニックの言い様からして、きっとスネークの仕掛けたものだ。
さっきの物体も爆弾だった。
あれらもきっとそうなのだろう。
ロイはもう一度、爆発物の位置を確かめ、
そして足を踏み出そうとした・・・
のだが
パリンッ!
白い光と共に、何かが割れるような音。
後ろからだ。
「あら」
ロイに掛けられる、女性の声。
素直にロイは後ろを振り向く。
女性が立っていた。
スラッとした細身に鮮やかな水色の衣服を身にまとい、
緑の長い髪を1つに結った、見た目は華奢な女性だ。
腰には1振りの、やはり細身の剣を提げている。
(この人は・・・)
「エリウッド君じゃない」
「え?」
唐突に出て来た、父の名前。
「こんな所で会うとは思わなかったわ。
でもごめんなさい、手加減はできないの」
ロイが何を言う間もなく、
彼女は、低く身を屈め、剣に手を掛けた。
(!!来るッ・・・)
避けることを考え、身構えるも、
彼女に対しては意味がなかった。
剣は抜かれ、
一閃、彼女は瞬く間にロイの横を通り過ぎ、その身を薙ぎ払う。
大きく飛ばされる、ロイの身体。
「これでよかったかしら、大王様?」
「満足ぞぃ!」
聞こえた声に、ロイは飛ばされながらもそちらを向く。
つい先ほど相見え、そして落ちていったはずの、デデデ大王。
彼がそこには居た。
勝ち誇った顔であの巨大な木槌を構えている。
「ワハハッ、ワシのこと忘れたとは言わせんぞぃ!覚悟せいッ!!」
デデデが、木槌を振りかぶった。
ロイに避ける手立てはない。
「これでワシの勝ちぞぃッ!!!」
その言葉を否定できる要素が見つからない。
覚悟を決めるべきか、
そう思った矢先、
瞬く間に現れる、青の閃光。
それはデデデの頭をまたも踏みつける。
踏まれたデデデはその場で地にへばり、ソニックがその後ろに立つ。
その間にロイは、
2人から数歩離れた地でなんとか受け身を取って立ち上がった。
「アンタもしつこいね」
「ソニック〜〜〜ッ!!!
ワシを2度も足蹴にしよって・・・も〜許さんぞぃ!!」
「悪いな大王サマ。
but・・・Winner is ME!!」
言葉と共に、
2人が互いに距離を縮める。
それを背に、
ロイは剣をしかと握りしめ、駆け出す。
目標は・・・
「!」
「・・・」
スネーク。
この人は放っておいてはいけない、そう感じていた。
案の定、彼は大きな鉄筒を肩に構えている。
迫るロイにその照準を合わすも、
ロイの方がわずかに早い。
すれ違いざまに剣を横に払う。
それと同時、スネークは武器を捨てて横へと転げた。
さすがの身のこなし、
しかしロイも即座に振り向き、さらに追い討ちをかけに行く。
後ろへと退くスネーク、
彼に向かいロイは地を蹴った。
だが、
そこへ上からソニックの蹴りが飛び入ってくる。
自身を踏みつけんと振ってくる、真っ赤なシューズ、
ロイはとっさに剣で受け止める。
受け止めた剣が振られると同時にソニックはそれを蹴り出し、
その勢いで今度はスネークの方へと迫る。
「ソニック、君は今日の主役が誰だかわかっているのか?」
「この『乱闘』の勝者ッ!・・・だろ?」
「・・・」
半ば呆れ顔で、スネークはソニックをあしらいつつ、
こちらはあくまでもロイへと仕掛ける機会をうかがい続けている。
「な〜にを言っておるかぁ!いつだって主役はワシぞぃッ!!」
誰に主張しているのかもわからぬが、
デデデは木槌をもはや誰彼かまわず振りかぶる。
全てが白い冬景色の中、混線以外の何物でもない状態。
ロイも、皆の様子からチャンスをはかり・・・
↑上へモドル
「はぁッ!!」
突如、
大振りの一撃がロイ以外の3人を捕らえ、吹き飛ばす。
それは、ロイの剣ではなかった。
あまりにも突然で予想外の大技をもろに受け、
三者三様、
ステージの外の空間へと散る。
瞬く間に3人が消え、
ロイの目の前には、1人だけが残っていた。
「・・・」
「・・・」
ロイは、現われた彼の真っ直ぐな視線を、
同じく真っ直ぐに見詰め返した。
青い短髪にバンダナを巻いた青年。
3人を一振りで薙ぎ払った大剣を右手に携え、
静穏と、
まるで何事もなかったかのようにロイだけを見据えている。
「・・・」
「・・・」
もう、彼・・・
アイクが何を求めているかわかっている。
言葉は要らなかった。
2人はどちらからともなく、剣を正眼に構えた。
ちょうど、雪が止んだ。
空はみるみる晴れ渡り、山々にも緑が戻る。
背景には大きな赤いチューリップが咲き、クローバーの群れが揺れ始める。
だが、対峙した2人は、見とれるどころか目をやることもしなかった。
続く、沈黙。
そして
キンッという剣同士のぶつかる音。
ロイの振った剣をアイクの剣が受け止める。
剣と剣が押し合う。
だがロイが力を込めようとも、アイクの剣は退く兆しを見せぬと知り、
ロイは素早く剣を引く。
そしてアイクに隙を与えぬよう次々と技を繰り出す。
その1つ1つを確実に剣で捌くアイク。
剣と剣の交わる音が、高らかに空に響く。
繰り返される進退。
ロイの、軽やかな中に力のこもった剣をアイクが受け止め、
アイクの、重くて嘘偽りなく力をさらす剣をロイが受け流す。
比べようにもあまりに違いすぎる2人の剣技。
だが当然のことながら、
両者とも負けるつもりなどなく、先を読むこともしなかった。
ひたすらに続く剣の打ち合い。
「はッ!」
繰り出される、流れるような連撃。
身を引いてかわすアイクをロイの剣が追う。
2つ、3つ、
とどめと4つ目に剣を突き出す。
が、アイクはそれを、跳んでかわした。
地を蹴ると同時に、空中で剣を頭の上まで振りかぶる。
剣を突き出した姿勢から、ロイはそれにカウンターを仕掛けんと身をひねった。
どちらが早いか。
2人の目に緊張、そして自信が光る。
と、
そこへ
ヒュッと鋭い風斬り音。
急にアイクが剣を構えた手を下ろし、身をよじらせた。
その脇を、何かが通り過ぎる。
そしてそれはそのままロイへと向う。
ロイは構えた剣でそれを薙いだ。
剣から炎が散る。
弾かれた物は勢いよく回転しながら宙を舞い、
トスッ
それは、ロイの背後の地面に突き刺さった。
(・・・弓矢?)
思う間に、空を過ぎる影。
軽い音を立ててそれはロイの後ろへと着地し、
地に着くや否や、ロイに向かって飛び出す。
気配で察し、振り向かずに身を屈めて、ロイは迫る相手を避けた。
勢いのまま彼はアイクと対峙する。
ロイのよりももっと素早く振るわれた剣、
だがアイクはしっかり予測しており、それを確かに大剣で受け止める。
そして、もう1本が振られる前に、相手ごとなぎ払った。
払われた相手は宙に飛ばされ・・・
だが、空でその背の羽根を羽ばたかせ、ロイたちから少し離れた地面に降り立った。
「・・・何か用か?」
アイクが、特に感情も込めずに尋ねる。
その目線の先に立つのは、
背中に真白い羽根を背負った、まさに天使の容貌の少年。
手には2振りの青い刀身が握られている。
「用って・・・言われてもな、アイク」
答えはその天使ではなくアイクの後ろ・・・ロイの前から返ってくる。
そちらにはもう1人、
緑の衣服に緑の帽子をつけた青年が立っていた。
こちらは手に弓を携えたままだ。
「今、誰もが同じ人探してることくらい知ってるだろ?」
「なぁ〜に言っても無駄だよ、リンク」
天使の少年・・・ピットがその言葉を継ぐ。
「アイクってばどうせ、目の前しか見えてないんだから」
「・・・そんなことない」
「だったら、僕たちが来ることくらいわかるよね」
ピットが、ほんの少しの嘲りを含めた笑みを浮かべた。
「・・・あぁ、もちろん」
アイクも無表情な顔でうっすらと微笑む。
「だが、関係のないこと、だろう?」
ピットとアイクの間、
ロイを挟んで流れる空気。
対面ではもう1人の青年・・・リンクが密かに小さく息をついた。
「ホント、何しに来たんだか分からなくなるな・・・」
「皆、自分がって思いすぎてるんだよ」
なんだかすでに疲れた様子を見せるリンクにロイが話す。
「僕は全然負ける気ないんだけどね、たとえ3対1でも」
「・・・ずいぶん余裕なんだな。それがセンパイの貫禄なのか?」
「まさか」
さっきから、
先輩なんて呼ばれるとくすぐったくて仕方がない。
ロイはリンクに肩をすくめて見せた。
「余裕なんてどこにもないよ」
ふと、アイクとも目が合う。
そしてロイは言葉を続けた。
「でもなんだか楽しくて」
単純な答えと共に、純粋な笑顔を見せる。
「・・・余裕たっぷりじゃん」
リンクは弓を背にしまう。
代わりに剣を抜き、左手に構えた。
「でも楽しんだ者勝ちってのは賛成」
皆に釣られてか、彼も笑って剣をくるりと回す。
リンク、アイク、ピット、3人の視線がロイに向けられる。
4人は各々、自分の手中の剣を構えなおした。
一時の静けさを得た戦場に、
穏やかな春風が吹き抜けていく。
↑上へモドル
空間に光が走った。
それを合図に、全員が、動く。
前に向かって地を蹴るピットとアイク。
ロイは体を開いて後ろへと1歩退いた。
その目の前で、ピットとアイクの剣がまたも交差する。
2人の動きが止まった一瞬、
すかさずロイが2人に一太刀浴びせんと構える。
振られる剣
それをピットが空いていたもう1本で止める。
するとアイクは、疎かになったピットの剣を払い、
大剣でロイの足下からすくうように斬り上げる。
ロイは即座に剣を退き、
アイクの剣撃を避けると同時に大きく跳び上がる。
いったん2人から離れ、
と、思いきや、身をひるがえしてピットに迫り・・・
ガキンッ
「え?」
「へ?」
剣を合わせた2人は思わず妙な声を上げてしまう。
2本の剣がぶつかる瞬間、
その音に重なって、明らかに別の音が響いた。
「何?」
疑問を浮かべるロイはピットに思わずもらす。
だが、
ピットはロイのことなど見てはいなかった。
その視線はロイの頭上・・・さらに奥に。
ロイもついそちらを見やる。
他3人からだいぶ離れた空中に、剣を振りぬいたリンクの姿。
彼もまた、誰のことも見てなどいない。
リンクの剣の先に一体何があるのか。
その標的を、ロイも確認する。
それを見て、
思い出した1つの言葉。
事の始めに、
ファルコが別れ際にただ1つ与えてくれた、ロイへの助言。
『虹色のボールが現われたら、
迷わず叩け』
ロイの横をアイクが通り過ぎた。
一方でリンクは剣で弾いた物を追い、剣をしまって爆弾を取り出す。
彼の狙うその球体は、
確かに虹色に輝きながら空中をふよふよと漂っている。
リンクが狙いを定め、手中の爆弾を構える。
だが、
「甘い」
「!!」
その頭上に現われる、アイク。
アイクは遠慮なく、リンクを踏みつけた。
「イッ・・・!!」
「・・・」
たまらず地へと落ちるリンク。
表情1つ変えず、今度はアイクがボールに向かう。
しかし、
そこに転がってくる、リンクの手にしていた爆弾。
思わず、足下を見やる。
まだ弾けぬ爆弾、ちょうどそこに、もう1つの爆発物。
・・・
どうやら、スネークの置き土産らしい。
アイクの驚く顔を見る間もなく、
爆発音が響いた。
立ち昇る爆煙。
変わらずボールは漂い続ける。
それを掻い潜り、代わってピットが姿を現す。
「いただきッ!」
両手の剣を併せ、ボールへ向かって地を蹴った。
「これで・・・」
ピットが勝利を確信して笑みをこぼした・・・
のだが
「甘いッ!よ」
その背後から
ロイが迫り、左手でピットの体を軽く横へ押し出す。
あれが何なのかはさっぱり見当もつかない。
それでも、
ファルコの言葉やピットたちの反応からして、
重要なアイテムであるのは疑いようがなかった。
ロイは、渾身の力を込め、そのアイテムへと剣を振るった。
バリンッ!
剣を振り抜いた途端、
今までに、全く感じたことのない感覚を覚えた。
(な・・・なんだ?これ・・・)
手足の先まで、
熱いような冷め切っているような、
不思議な、何かオーラのようなもので包まれているような。
そんな感覚。
その何かによってか、
芯から全身に力が溢れ、みなぎっていく。
振り向けば、
ピット、リンク、アイク、
3人ともまだ体勢を取り戻しておらず、
ただこちらに向けて、後悔、警戒、そして僅かな期待を含めた眼差しを送っている。
自分を遮る者はない。
この力を、解き放てば・・・
(ダメ・・・だ)
理由はなかった。
だが、
ロイは、それに抗った。
(使っちゃ・・・ダメだ)
何故そう思うのか、
自分でもわからなかった。
『ここ』において自分の持てる力を出すことをためらう必要がないのは知っている。
では何故か?
大きすぎる力への恐れか、
マスターの意思か、
そもそもどうやって使えと言うのか・・・
とにかく、
ロイはその得体の知れないものに、抗った。
ふっ、と
それは音もなく消え失せる。
「・・・ロイ?」
ピットが自分の名を呟くのは聞こえた。
だが、唐突に、ひどい脱力感に襲われ・・・
『ロイッ!?』
3人の声が重なる。
そして、
倒れそうになる寸前、
誰かの腕が、身体を支えてくれた。
「・・・大丈夫かい?」
聞こえた声に、ロイは辛うじて目線を上げる。
見慣れた、優しい青い瞳が、こちらをのぞきこんでいた。
「・・・先・・・輩」
小さくそう呼ぶと、その顔がクスッと笑みをこぼした。
「まったく、不器用なんだから・・・」
「・・・すいま・・・せん」
相変わらず謝り癖の抜けない後輩に多少呆れながら、
ロイを支えたマルスは、
顔を上げてアイクたちと目を合わせる。
「今回は僕の勝ち、でいいかな?」
「いいわけないだろ!」
ピットは反論するも、
「時間、切れ?」
「・・・」
他2人は、物足りなさそうにしつつも諦めが早い。
「不満?」
「当然!」
「じゃ、その分は後でたっぷり遊んであげるよ、僕がね」
にっこりと笑みを浮べ、
そしてロイへと目を戻す。
「お疲れさま。
ゆっくり、おやすみ」
マルスの柔らかな言葉、
ロイはついに、すっと目を閉じた。
目を覚ますと、
部屋の天井が目に入った。
白い、清潔な部屋の天井。
身体を包み込んでいるのは、やはり白い、柔らかな毛布。
見覚えのある場所に寝かされていると、すぐに気付いた。
「あ、ロイ!おはよう」
そこに上から注がれる声と視線。
「・・・・・・・・・リンク?」
「ロイ、だいじょぶ?」
「うん・・・・・・平気・・・」
答えながら、ロイは身を起こした。
「お、気付いたようだね」
と、ベッド脇からは白衣姿のマリオが声をかけてくる。
「気分はどう?痛いところはない?」
「あ、はい、・・・問題、ないです」
「そうか。ならよかっ・・・」
「ロイ兄ッ!!」
「ピチュッ!!」
「わっ!?な・・・」
いきなり飛びついてくる子供リンクとピチューに、思わず声を上げる。
その横で、
大人の方のリンクは苦笑いしながらも、あえてそれを遮ったりはしなかった。
「リンク!?ピチュー!?2人とも、どうしたの!?」
「だってッ!!!」
ピチューがロイに体を寄せる中、
目に涙さえ浮かべそうな勢いで子供リンクはロイを見上げる。
「だってロイ、いないなって思ってたら、
いきなり倒れたって聞いたから・・・ッ!!!」
「倒れた??誰が?」
「ロイ兄に決まってんだろッ!!」
捲くし立てる子供リンクの言葉に、
記憶の糸を手繰り寄せる。
傍目の部屋の入り口、そこから静かにミュウツーが入ってくるのが見えた。
「・・・マルスが、君を連れてきたんだよ」
騒がしい子供リンクに代わって、マリオが話し出す。
「いきなり君を抱えてきて、
『寝かせてやってくれませんか』、と。
気になったからちょっと診させてもらったけど、これといって悪いところも見当たらず、
気持ちよさそうに寝てたから、とりあえずベッドだけ貸したんだ」
「・・・先輩・・・は?」
「マルスなら、そのまま何処か行ったよ」
「そう・・・ですか」
『あっち』にいたことは覚えている。
だが、ボールを取った後くらいからがはっきりしない。
マルスが自分を連れ帰ってきてくれたのか?
それもよくわからない。
「本当に、大丈夫か?」
と、大人リンクも少し心配げな様子をみせる。
「あ、うん、全然平気」
「そんな顔して、・・・どうした?」
え?とロイがリンクの顔を見やる。
気付けば、
部屋の皆の視線が、ロイに集まっている。
マリオ、リンク2人、ピチュー、ミュウツー・・・
5人の目が、なんだかただ心配してくれているわけじゃないと、感じ取れた。
「・・・
変な夢でも、見た?」
妙な含みのリンクの言葉、
どう答えるべきか。
ロイは、
特にミュウツーの冷めた視線を気にしながら、
しばし思案した。
↑上へモドル
たまには裏話でも。
ファルコには、
マスターがちゃんと指示を出してロイの迎えに行かせています。
ロイへの最初で最後のお情け。
また、
マスターは始めから
ロイの『ゴール』をスマッシュボールの取得に定めていました。
ランダム性とロイの力、
双方に左右される、ゲームとして程よい条件ということで。
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